「うん。俺は遊び対象か?ってぇー。遊びだったら押し倒してるっつーの!手も繋いでないのにねぇー」
ぷぅーって頬を膨らませるゆき乃先輩は、カシスと苺を合わせた甘めのカクテルをグビッと飲んだ。
ちょっと顔が赤くなってきてほろ酔いに見える。
本命の彼にそう思われるのは確かに悲しいけど。
「あの、今市隆二くんは、遊びですか?」
やっぱり真意が気になってしまう。
あたしの質問に鋭い視線が飛んできて思わずゴクッと唾を飲み込んだ。
ウインナーにフォークをぶっ指してそれをペロって舐めるゆき乃先輩にえみ先輩がブッて吹いた。
「りゅーじぃ?りゅーじは例えるなら…酸素」
「…酸素、ですか?」
「うん。いなきゃダメなの、わたし。りゅーじいなきゃ生きていけなぁい…」
全く分からなかった。
てっきり身体だけの関係かと思ってた。
2人とも割り切って付き合ってるもんだってそう思っていたんだけど。
「それ隆二が聞いたら喜びそう」
同感?そう思っているんだろうか、えみ先輩も。
「えみ先輩もですか?岩田のこと…」
あたしが聞くとえみ先輩はチーズ乗せのクラッカーをパクついた後、指についた塩をペロりと舐めてからあたしをジッと見つめて言ったんだ。
「岩ちゃん次第よ。なーんてそれってずるい逃げ道なのかもね」
儚く笑ったえみ先輩に色々聞きたいと思ったけど、何だか何も聞けそうもない。
「私本当は岩ちゃんと一生一緒でもいい!ってこれでも思ってるのよ。言わないけど…。だけど大輔先輩はそれでもやっぱり一生私の心に残る人だとも思ってる…。消化できなかった恋ってなんでこんなに引きずっちゃうんだろうね?…大学の時の先輩で、すごく好きだったの。でもその頃からずっと大輔先輩の隣には希帆ちゃんがいて。私の入る隙なんてどこにもない。その隙間を埋めてるのは岩ちゃん。岩ちゃんは私の黒い部分も受け入れてくれる。いっそ岩ちゃんにプロポーズでもされたら受けるのになぁー」
天井を見つめるえみ先輩。
泣いてる訳じゃないのに泣きそうに見えるのに、どうしてかすごく綺麗で。
「確信に迫る勇気っていがいと、ないんだよね…」
続く言葉に微笑むえみ先輩はやっぱり綺麗。
複雑すぎてあたしにはとてもじゃないけど難しすぎる先輩達の関係。
「それ岩ちゃん聞いたらすぐプロポーズするんじゃない?」
クスッてゆき乃先輩が笑う。
「健ちゃんも、ゆき乃にはすぐにプロポーズしてくれるんじゃない?」
「…健ちゃんかぁー。好きなんだけど、真剣すぎてちょっとウケる!」
すっかり忘れてたよ、山下さん!
「真面目なんだもん健ちゃん!試してもいいけど、わたし結局りゅーじに戻る気がする」
「そんなにいいんだ、隆二?」
「んー。何かね、やっぱり優しいの!でもわりとしつこい!ここってとこを執拗に攻めてくる…それが最高に気持ちいいんだけどね」
「あははっ!なんか想像できるかも!前戯に命かけてそうっ!」
「そうそうっ、かけてるっ!挿れててもどっかしら触ってる!」
なんの会話ですかいっ!?
アタリメが噛み切れなくて口の中で溶かしていたらどんどん先に進む2人の会話に身体が火照ってくる。
完全に下っすよね?
下ネタトークっすよね?
「せせせせせせせんぱい、何のお話ですか…」
恥ずかしながら小声でそう聞くと、これまた声を揃えて言ったんだ。
「セックス!」
やっぱりかいっ!!
赤裸々すぎて、恥ずかしいっす!
「美月は?哲也くんのセックス!どんななの?教えて教えて!哲也くん結婚してるから諦めたのに、不倫がありなら諦めなきゃよかったよーわたしぃー」
「絶対ダメです!ゆき乃先輩相手にあたしなんて勝てるわけないっ!!」
「そう?臣にはきかないみたいだけどー」
ニヤッと口端を緩めたゆき乃先輩。
「絶対気に入ってるよね、臣は美月ちゃんのこと!時間の問題だって思ってるけど」
えみ先輩まで、なんてことを!
「ねぇどーすんの?臣に告られたら!哲也くんとのこと知ってるのって、岩ちゃんだけ?」
あたしが噛みきれないアタリメをどんどん噛み砕いて食べてるゆき乃先輩すげぇ。
マヨ醤油にぴちゃぴちゃつけてパクパク食べてるよ。
「どうするもなにも、断ります。あたしにはテツだけです。知ってるのも岩田と先輩2人だけですよ!」
自然と出た言葉だったけど、後から強烈に襲ってくる羞恥心。
なにこの会話。
あまりに先輩達が素直に話してくれるもんだから、あたしまで気持ちを吐き出してるの?
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