シェアハウス2


ピンポーン!



「おはようございまーす!」



呼び鈴を鳴らすとガチャっとドアが開く。

出てきたのは…「え、トサカ!なにしてんの?」…同期の登坂広臣が頭にタオルを巻いてドアを開けてくれた。



「お前の引っ越しの手伝いだけど。健二郎さんにヘルプ頼まれた」

「けんじろうさん?」

「店長だよ、Francfrancの山下健二郎さん!」

「ああ、なるほど!んじゃ宜しく頼むよ!」



ポンって白いTシャツから伸びた腕に軽く触れると、あたしの前髪をクシャっとして「引っ越し蕎麦奢れよ?」なんて言うんだ。



「仕方ないな…」



あたしがそう答えたところで「おはようさん!」後ろから聞こえた山下さんの声。

ちょっと鼻にかかった関西弁の山下さんは”黙ってればイケメン”ってゆき乃先輩が言ってたっけな。

黒髪を奇麗に上に固めてオールバックしている山下さんに「今日は宜しくお願いします!」丁寧に頭を下げた。



「よろしゅうな!ゆき乃ちゃんの頼みやもん、まっかせときぃ!」



無駄にガッツポーズをする山下さんにあたしは笑顔を零した。





「美月、おはよ!」

「美月ちゃん、朝早く御苦労さま〜」



ようやく顔を出した、主の先輩二人。

我が社きっての上流階級であるインフォメーション兼エレベーターガールをこなしている憧れの先輩。

うちの会社で一番難しいと言われている部署である。

各お店の場所、特徴、物品の種類までありとあらゆる物と場所を把握しておきつつ、色んなお客に対して笑顔で対応できる接客のプロしか配属されないという幻の部署。

なんなら社長のお墨付きをいただけないと配属が許されない雲の上の存在だった。

勿論容姿も抜群で。

一般的に見て「美」を奏でられる人ばかりがそこにいる、LDHの顔がそこにいるようなもんなのだ。



「あ、おはようございます!今日からお世話になります!」



ペコっとさっきよりも深く頭を下げるあたしに、とんでもない言葉が投げられた。



「美月、朝ご飯作ってくれない?」



言ったのはゆき乃先輩。

へ?朝ご飯っすか?

って顔で思いっきり見るその隣で、えみ先輩がショートのサラサラな髪を手でワシャワシャしながら「昨日飲みすぎちゃってね〜」…ていうか、スッピンなのに二人ともどんだけ奇麗なんっすか!?

思わず目が飛ぶほど女として魅力満載で。

ここにいる引っ越し男子は絶対にこの二人の射程に違いないって思う訳で。



「朝ご飯ですか?」

「うん。わたしクロワッサンとアッサムね〜」

「私もクロワッサンに珈琲にして」

「…はい!」



先輩二人の後をついてキッチンに行くと、そこで寝ていたんだろうか?

つけっぱなしのドデカイTVに、ちょっと乱れたソファーが目に入る。



「臣〜シャワーするから覗くなよ!?」

「…はいはい」



まるで日常茶飯事って感じ、トサカがそんな風に奇麗どころをあしらってる姿なんてあたしには全く想像できなくて…。

ていうか、なんでオミ呼び?



「ねぇ、トサカってゆき乃先輩のオトコじゃないよね?」

「はぁー!?んなわけねぇだろ!あの人のこと好きなのは俺じゃなくて健二郎さんだよ!まぁ完全に健二郎さんの片想いだろうけど…」

「なるほど…」



キッチンでクロワッサンをオーブンに入れてスタートボタンを押した。

それからゆき乃先輩のアッサムの缶を開けると、濃くのある香りが充満する。

えみ先輩用の珈琲を準備しつつ、アッサムと濃い牛乳を混ぜてしばし待機。

あ〜何か優雅な朝だなぁ〜。

ちょっと海外チックなここ、シェアハウスは、家の真ん中に大きなリビングルームがあって、その目の前が広い庭になっている。

庭は高い壁に囲まれている為、外からは見えなくなっていて、もしかしたら休日はここでBBQぐらいできるんじゃないかってくらい広い。

花や木々が生茂っていて、都会なのに澄んだ空気が流れている。

こんな場所でこれからどんな生活が待っているのか想像するだけで顔が笑う。



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