マーキング4


「おはよー」



そんなあたし達の後ろから聞こえた爽やかな声。

相変わらずエロ着なゆき乃先輩は胸元がパックリ開いた大きめのTシャツ一枚と短パンを履いていて、胸元にはこれまたえみ先輩と同じキスマがしっかりとついている。



「美月、さっきはごめんねぇ」



ニッコリ微笑むゆき乃先輩は心なしか肌がツヤツヤして見える。

やっぱりアドレナリン効果?

ヤバイ、本気でテツに逢わないとあたし…




「いえ…。あのゆき乃先輩もキスマ…」



目線を胸元に寄せるあたしに「え、美月もつけて貰いたいの?りゅーじに頼む?」とんでもない台詞が飛んできた。

全くもって思ってないし。

そういう意味じゃないし。

慌てて首を左右に振って「違います」って否定した。

そんなあたしを今市隆二くんは微笑ましく見ている。



「先輩達二人とも、愛されてますね…」



結局そんな返ししかできないあたし。



「愛されてる?」



ゆき乃先輩は隆二に寄りかかっていて。




「めちゃくちゃ愛してるよ」



恥ずかしげもなくそんな言葉を交わす二人は、それでも恋人同士ではないんだって。

そんな現実がちょっとだけ切ない。

同期二人が本気で好きっぽいのに対して、先輩二人は本命がいることが、やっぱりちょっと切ない。

一方通行の恋なのに、身体だけ繋がっているのは、一体どういう気持ちなんだろうか。



――なんて人の心配をしている場合ではないのかもしれないけど。



ゆき乃先輩と隆二が揃ったから、リビングの大きなテーブルで朝食をとることにした。




「臣のフレンチトースト絶品〜。美味しい」

「いつでも作ってあげるよ」



余裕の表情のトサカ。

何でかゆき乃先輩と話すトサカはあたしの知らない顔で。

やっぱり別人みたいでちょっと嫌だった。

だからなのか、気づくとトサカの視線があたしを捕らえていて。



「え?なに?」

「口、ムウって尖ってんぞ」



伸ばされた指で唇をムニュってされた。

そんなあたし達を先輩二人は意味深に見ていて。

コソっとえみ先輩がゆき乃先輩に耳打ちする。

なになになんっすかっ!?

別にあたしのことを言われた訳じゃないのかもしれないけど、絶妙なタイミングだったせいかどうにも恥ずかしくなる。



「美月、今夜空けといて!」

「え?…今夜ですか?」

「そうよ、今夜」



今夜はテツと逢えたらって思ってたんだけど…

眉毛を下げたあたしを見てえみ先輩が「あ、彼氏?」なんて軽く聞いた。

その瞬間、トサカの視線があたしに飛んできて。

なんならここにいる全員の視線が飛んでくる…岩田を除いた全員の。



「まさか、まさか!そんなのいませんよ!」



無駄に否定する自分がまた苦しい。

ジーっとあたしを見つめるトサカの大きな目がフワリと微笑んで。



「いるわけねぇよな、お前」



ボソっと呟いたんだ。

内心、コノヤロウ!って思ったけど、表ざたに出来ないテツの存在に、あたしは笑うしかなかった。



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