「おはよー」
そんなあたし達の後ろから聞こえた爽やかな声。
相変わらずエロ着なゆき乃先輩は胸元がパックリ開いた大きめのTシャツ一枚と短パンを履いていて、胸元にはこれまたえみ先輩と同じキスマがしっかりとついている。
「美月、さっきはごめんねぇ」
ニッコリ微笑むゆき乃先輩は心なしか肌がツヤツヤして見える。
やっぱりアドレナリン効果?
ヤバイ、本気でテツに逢わないとあたし…
「いえ…。あのゆき乃先輩もキスマ…」
目線を胸元に寄せるあたしに「え、美月もつけて貰いたいの?りゅーじに頼む?」とんでもない台詞が飛んできた。
全くもって思ってないし。
そういう意味じゃないし。
慌てて首を左右に振って「違います」って否定した。
そんなあたしを今市隆二くんは微笑ましく見ている。
「先輩達二人とも、愛されてますね…」
結局そんな返ししかできないあたし。
「愛されてる?」
ゆき乃先輩は隆二に寄りかかっていて。
「めちゃくちゃ愛してるよ」
恥ずかしげもなくそんな言葉を交わす二人は、それでも恋人同士ではないんだって。
そんな現実がちょっとだけ切ない。
同期二人が本気で好きっぽいのに対して、先輩二人は本命がいることが、やっぱりちょっと切ない。
一方通行の恋なのに、身体だけ繋がっているのは、一体どういう気持ちなんだろうか。
――なんて人の心配をしている場合ではないのかもしれないけど。
ゆき乃先輩と隆二が揃ったから、リビングの大きなテーブルで朝食をとることにした。
「臣のフレンチトースト絶品〜。美味しい」
「いつでも作ってあげるよ」
余裕の表情のトサカ。
何でかゆき乃先輩と話すトサカはあたしの知らない顔で。
やっぱり別人みたいでちょっと嫌だった。
だからなのか、気づくとトサカの視線があたしを捕らえていて。
「え?なに?」
「口、ムウって尖ってんぞ」
伸ばされた指で唇をムニュってされた。
そんなあたし達を先輩二人は意味深に見ていて。
コソっとえみ先輩がゆき乃先輩に耳打ちする。
なになになんっすかっ!?
別にあたしのことを言われた訳じゃないのかもしれないけど、絶妙なタイミングだったせいかどうにも恥ずかしくなる。
「美月、今夜空けといて!」
「え?…今夜ですか?」
「そうよ、今夜」
今夜はテツと逢えたらって思ってたんだけど…
眉毛を下げたあたしを見てえみ先輩が「あ、彼氏?」なんて軽く聞いた。
その瞬間、トサカの視線があたしに飛んできて。
なんならここにいる全員の視線が飛んでくる…岩田を除いた全員の。
「まさか、まさか!そんなのいませんよ!」
無駄に否定する自分がまた苦しい。
ジーっとあたしを見つめるトサカの大きな目がフワリと微笑んで。
「いるわけねぇよな、お前」
ボソっと呟いたんだ。
内心、コノヤロウ!って思ったけど、表ざたに出来ないテツの存在に、あたしは笑うしかなかった。
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