「えみがいないからって、たかぼーも臣も…。わたしはいつだって本気だもの、ほっといて!」
スッとトサカの腕の中から這い出たゆき乃先輩は隆二の腰に腕を回す。
そんなゆき乃先輩にみんな見てるっていうのに、キスを迫る隆二。
チュって触れあうだけのキスだけど…
キスをしながら歩いてこの広いリビングから出て行った。
やっぱりゆき乃先輩をあしらうトサカは、あたしには絶対に見せない…なんていうか男の顔で。
そうやって男を引き出せる先輩をすごいと思った。
「日常茶飯事なんですか?こういうの…」
あたしが田崎さんを見てそう聞くと「そう。真面目な話嫌いなの、あの子達、全く困っちゃうよね〜。俺達だってもういい歳なのにさ」そう言いながらハイボールを自分で作っている。
まだ飲むの?
隣のトサカもハイボールのおかわりをしていて…
「煙草くせぇな。ちょっと窓開ける」
立ち上がって庭側の大きな窓をカラカラと開けた。
「わお、美月!ちょっと来いよ」
呼ばれてあたしはグラスを置くとお庭に出た。
「なに?」
「上、見てみ?」
空を指差しているトサカの視線を追うと、そこにあったのは都内だというのに煌びやかな星で。
「奇麗…」
「ああ」
「東京で星なんて滅多に見たことないかもあたし…」
「俺も…久々に見たわ」
まるで時間が止まったように思えた。
トサカと二人で首がもげそうな程、空を見上げている。
大きな空は全てを分かってくれているようにも思えて、心が解き放たれたそんな気分にさえなる。
ボーっと見ているあたし達の上、「「あっ!」」あたしとトサカの声が被って。
「お前今、見たっ!?」
「見た!トサカも見たっ!?」
「見たっつうか、ヤバくねぇ?こんな場所でも見れるんだ、流れ星って…」
「ね?ね?」
パシパシトサカと手を重なり合わせていると、不意にバランスを崩した。
ぶっ倒れる!!!
そう思って目を閉じた瞬間、ふわりと煙草の香りに包まれる。
「興奮しすぎ、美月」
スッとすぐに離れるけど…
ドックンドックン脈打ってるのはあたしの心臓?
嘘でしょ…
「ほんっと目が離せない奴だな」
ポンポンってトサカの手が頭に触れて…
初めてだったんだ…―――テツ以外に、こんなにもドキドキしたのは。
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