戻ってきそうもないえみ先輩と岩田を待つこともなく、宴の続きはゆっくりと始まっていく。
「もーあかん!」
そんな声と共にソファーの後ろにぶっ倒れた山下さん。
真っ赤な顔でふにゃふにゃ笑いながらゴロンっと大の字になってグーグーいびきをかきはじめた。
1秒前まで喋ってたよね?
「やっと寝てくれた」
そう言ったのは今市隆二くんで。
え、もしかしてゆき乃先輩を独り占めする気?
隆二の言葉が聞こえていないのか、スッと立ち上がってゆき乃先輩の部屋からタオルケットを取ってきて山下さんにかけてあげるゆき乃先輩。
「顔は奇麗だよね…」
「顔はって、ゆき乃…。考えてあげたら?健二郎のこと、真面目に…」
煙草を吸いながら田崎さん。
物凄い飲んでいるのにも関わらず全く酔ってる形跡は見えない。
この人、そうとう酒強いんだなって。
ゆき乃先輩は山下さんと同じぐらい真っ赤な顔で、なんならちょっと眠たそう。
「それって健ちゃんに本気になれってこと?」
「そう。いいんじゃない?真面目に付き合うには…」
田崎さんの言葉に黙りこくったゆき乃先輩。
小さく溜息をつくと隆二に視線を移した。
「もう眠い。りゅーじ寝よう…」
「うん」
「臣ぃ〜たまには相手してよ?」
あぐらかいて座っているトサカの背中にゆき乃先輩の温もりが後ろから落とされる。
首から腕を降ろしてユサユサしているゆき乃先輩。
トサカは飲んでたグラスをテーブルに置いてゆき乃先輩を振り返る。
その瞬間、チュって頬に小さなキスを落とすゆき乃先輩にあたしの目が飛び出そうになった。
セフレの前で他の男とチュウじゃん!!
いいの、今市隆二くんっ!?
思わずチラっと隆二に視線を移すと、特段変わらぬ顔色で。
やっぱりあたしにはその仕組みが理解できないかもしれない。
「りゅーじじゃ満足できないの?」
…なんて言葉だ!
無駄にドキドキしているあたしはトサカがどうでるのか気になっている。
「満足してるよ?でも臣ちゃん可愛いんだもん」
「えー俺可愛い?かっこいいって言われたいんだけど…」
「だって年下だもん。かっこいいって思わせてくれないの?」
「ん〜」
揺れるゆき乃先輩の腕をちゃんと掴んでいるトサカ。
その手をゆっくりと引っ張って横向きになると膝の上にゆき乃先輩がストンっと座った。
そこに顔を埋めてクンクン匂いを嗅いでるように見えて。
「変態…」
小さなあたしの声はトサカに届いているのかいないのか…。
「俺今遊びたい気分じゃないんだよね。ゆき乃さん本気で俺の女になる?そしたら考えてもいいよ」
トサカの言葉に田崎さんが吹き出した。
まるで答えを分かっているような、そんな顔で。
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