沢山のお酒とオツマミを買ってシェアハウスに戻ったあたし達。
あたしがこのハウスに馴染むのに時間なんてかからなかった。
同期のトサカがいてくれたのはかなり心強くて。
岩田も今は気まずいけど、いざって時には助けてくれる人だって思ってる。
今市隆二くんとはあまり絡んだことがないものの、たまに目が合うとニッコリと微笑んできて…
無駄に照れる自分がいる。
ゆき乃先輩、あんなの相手にしてたら他の男なんて目に入らなくならないんだろうか?
だってセフレってことは、それなりのことしてるってわけでしょ…
あ、でもいたな、本命の黒沢さん。
黒沢さんに対してあまりいいイメージのないあたしは、どうにもその魅力が分からずにいた。
「あ、見て見て、今はやりの不倫ドラマ!これ面白いよね!」
リビングにある大型テレビをつけて画面いっぱいに広がる女優、俳優のラブシーンを見て思わず目を逸らした。
それをマジマジと見つめるゆき乃先輩は、チラリとあたしに視線を送って微笑んだ。
ゴクっと思わず生唾を飲み込むあたし。
「あ、岩ちゃん盛ってるみたいだから、とりあえず先に始めちゃおう!」
続くゆき乃先輩の言葉に「ええええっ!?」目ん玉飛び出そうになった。
さっきの今だから?
えみ先輩もだし、岩田もあたしの言葉にイラついてるのかな…
「あの、あたし岩田に余計なこと言っちゃって…」
「余計なこと?」
「はい。えみ先輩と今の関係でいいのか?って…」
「うん」
「そしたら、お前には関係ねぇ!って怒らせちゃって…」
「ガキだな、岩ちゃん!りゅーじはそんなことじゃ怒らないよ?ね?」
ゆき乃先輩が思いっきり隆二に寄りかかっていて。
なんなら膝の上に座ってるように見えるんだけど。
後ろからお腹に手を回してゆき乃先輩を抱っこしている今市隆二はチラっと肩から顔を出してまた、ニッコリ微笑んだ。
「俺怒ったことないかも…」
とんだ平和主義者がここにいた。
「隆二は…いいの?」
おそるおそるそう聞くあたしは、少なからずこのアンバランスな関係の答えが欲しいのだろうか?
テツに聞けない代わりに、他の人に聞くなんて…
「俺はどんな形でもゆき乃さんの傍にいれたらそれでいいかな…」
「えー可愛い、りゅーじぃ!そんなにわたしのこと好き?」
「もう大好き!」
チュって軽いキスを繰り返す二人に目のやり場が…。
「退け退け…」
そんな二人を引き離すのは当たり前に山下さんで。
素直に山下さんの膝の上に座ったゆき乃先輩がすごいと思った。
「健ちゃんは真面目だからわたしの身体目当てじゃないんだってぇ〜!」
クシャって山下さんの黒髪を撫で撫でしながらゆき乃先輩が楽しそうに言ったけど、「ちょっと俺が身体目当てみたいに聞こえる!」って隆二が口を尖らせた。
「半分合ってるでしょ?」
「合ってない、合ってない!俺はそこに100%愛情込めてるもん!本当は健二郎さんにも渡したくないんだけどなぁ〜俺も…」
隆二の言葉にゆき乃先輩はポンっと山下さんの膝の上から下りて、「たかぼー」キッチンでトサカとオツマミを作っている田崎さんの方へと行ってしまった。
ちょっと気まずくねぇっ!?
「逃げられちゃったよ、また…」
そう言って眉毛を下げた隆二が小さく溜息をつく。
結構本気で好きなんだね、ゆき乃先輩のこと。
でも実際あたしもテツに確信を迫られたら?逃げてしまうのかもしれない。
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