セフレの実態3


岩田と喧嘩口調になったことも忘れて、あたしとトサカは別れて食材を選んでいる先輩達を見つけてそこにカートごと移動した。

やっぱり支払いは田崎さんだった。

……貢ぎグセがあるのか、それともただの金持ちなのか、あるいは下心ありなのか…。

ジッと田崎さんを見つめるあたしの視線に気付かれてニコッとえくぼを見せて田崎さんが笑った。

スッとあたしの隣に来ると肩を抱いて「今俺に見とれてた?」なんて囁き。

いやもー確かにかっこいいと思うけど、あたしの心はテツだけですぅー。

…この一言が堂々と言えたらいいのに。



「田崎さん、お支払いすいません。あたしも払いますよ?」

「あ、いーのいーの、お礼はえみにいつも貰ってるから!」



……あ、なるほどね、えみ先輩にね!

それならいいか。



「えっ!?」



もしかして、岩田に続いて田崎さんも、えみ先輩のセフレ!?

そうなの!?



「いいねーその反応!美月ちゃんほんっと可愛い。俺いつでも美月ちゃんとだったら真剣交際するから言ってね?」

「ダメですそんなの!田崎さんみたいな人にあたしなんて、」



不倫とかしちゃったら、もうまともな恋愛できない気がした。

結局の所、テツが妻子持ちだと知ったあたしは、一度はテツと距離を置こうと連絡も全て無視していたけれど、ふとした瞬間に現実に戻ったかのようにテツに逢いたくなって。

どんなにあたしが拒否しても、無視しても、それでもテツはあたしに連絡もしてきた。


【美月に逢いたい】って。


たった一言を何度となく送ってくるテツは、いったいどーいう気持ちなんだろうか?

この世の中、あたしに【逢いたい】と心から言ってくれる人はどれだけいるんだろうか?

テツの家庭は大丈夫なんだろうか?

奥さんは?子供は?

でも分かってしまったんだ。

たまたま民間ロードショーしていた映画の中の台詞にこんなものがあった。



「恋は、するもんじゃない――――――落ちるもんだ」



ハッとしたんだ。

あたしはきっと、テツにおちた。

好きになろうとして好きになったんじゃなくて、気づいた時には好きになっていた。

たまたま好きになった人に奥さんと子供がいただけだと。

散々悩んで迷って無視したあたしを、それでも逢いに行った時は、泣きそうな顔で抱きしめてくれた。

あたしはあの日のテツを一生忘れない。

どんなテツでも、愛してるの、ごめんなさい。



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