隆二におんぶされているゆき乃先輩の頬を指でプニってしてそのまま耳に触れる。
あたしの知ってるトサカはちょっと意地悪で、でもまぁ優しくて…普通なのに。
ゆき乃先輩を煽ってるのか、別人みたいに見えた。
「ちょっと臣、邪魔しないでよ!健二郎さんは諦めて!」
「はははは、諦めろって?」
余裕なのかトサカが面白ろ可笑しく山下さんを弄っていて。
結局、ゆき乃先輩は隆二にベッタリで。
「臣でもりゅーじでもいいけど…―――本当は良平くんがいい」
本当に寝ぼけているのか、ゆき乃先輩の言葉にほんの一瞬シーンとなった。
でもすぐに田崎さんが「可愛い奴」ってゆき乃先輩の頭を撫でる。
そこに流れているのは友情なんだろうけど、何だかとっても大事にされているようでちょっとだけ羨ましく思ったんだ。
同時に、そこに名前のない山下さんであり片岡さんのがきっとゆき乃先輩を本気で想っているって考えたら、胸の奥がチクっとする気分になった。
「片岡さん、もう終わったかな…」
小さく呟いた声を、岩田だけが拾っていたなんて。
「あれ?帰っちゃうの?」
ゆき乃先輩を連れたあたし達一行は、結局家のみにチェンジした。
帰りにスーパーで買いながら家で飲むってことになって。
バイヤーの前を通ってドアまで行く途中、テツに呼びとめられた。
「良平くんがほおっておくからゆき乃、酔っちゃったじゃない!」
えみ先輩がわざと黒沢さんに伝える。
「え、俺のせい?」
「そうよ。ゆき乃良平くんと飲むの楽しみにしたっていうのに、男ばっかで飲んで…」
「ごめんね、ゆき乃さん」
寝たフリのゆき乃先輩の頭を黒沢さんが優しく撫でた。
「次は二人で飲む約束してよね?」
強気で言うと「勿論!」ニッコリ微笑んだ黒沢さん。
なんだ、まんざらでもないじゃん!って。
とてもじゃないけど社交辞令には聞こえなかった。
やっぱりゆき乃先輩可愛いから、黒沢さんだってきっとすぐに落ちるよね…なんて思ったあたしに、まさかゆき乃先輩があんなことになるなんてこの時は微塵も思っていなかった。
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