「えみが帰るならわたしも帰ろうかなぁ、りゅーじぃ…」
赤い頬っぺたのゆき乃先輩がえみ先輩に便乗した。
さっきは黒沢さんがいるから帰らないって言ったけど、この状況で帰るって言ったえみ先輩のこと心配しているんだって思う。
何かいい関係だなぁ、二人。
そんでもって、やっぱり今市隆二くんを呼ぶのね。
すぐに駆け付けた隆二。
さっきまでトサカ達とダーツをして遊んでいたからここの空気が全く読めていなさそう。
「ゆき乃さん!」
「りゅうーじぃ、帰ろう?」
「いいけど、疲れちゃった?大丈夫?」
「うん、おんぶしてよ」
「はは、喜んで!」
スってその場で屈んでゆき乃先輩をおんぶする隆二に吃驚なんだけど。
確かにみんな酔ってるから気にしないかもしれない。
でもおんぶって、結構目立つよね?
こんなとこ山下さんや片岡さんに見られたら…―――あ、片岡さんは遅番シフトか。
「ちょ、ちょ、ちょう待ちぃ、帰るのん?」
だから慌てて山下さんがゆき乃先輩を奪いに来た。
その後ろから田崎さんとトサカも。
「眠くなっちゃった。りゅーじに送ってもらう」
甘ったるいゆき乃先輩の声に山下さんは一瞬ドキっとしたのか息を飲み込む。
でもその後すぐに隆二の腕を掴んで「俺じゃアカン?」至って真剣に放ったんだ。
間違っても笑う場所じゃないと思うのに…
「ブッ!!」
トサカと田崎さんがまるで爆笑するみたいに吹き出した。
さすがに失礼でしょ!
でも山下さんはそんなの気にしないって顔で、ゆき乃先輩しか見ていない。
それがあたしから見たら何だかとってもかっこよく見えた。
恋する男はそうであって欲しい。
世の中草食だか粗食だかが増える中、惚れた女には真っ直ぐに突き進んで欲しいって思っちゃうんだもん。
「今日もりゅーじがいい、ごめんね健ちゃん」
――あっさりフラれたけど。
「なんでやぁ!なんでいっつも隆二やねん!?俺かて黙っとったらイケメンやん!」
それ自分で言うんだ、山下さん…。
まぁあながち間違っちゃいないけど。
ゆき乃先輩は「臣でもいいよ?」なぁんて余裕の言葉。
スッて髪を撫でられてトサカは口をポカンっと開けっぱなしにしている。
でもすぐに口端を緩めてニヤっと笑う。
「俺が、いいの?」
それからそう聞いたんだ。
なに、こいつ。
何か腹たつ。
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