途端に岩田の表情から魂が抜けた。
死んだような目で煙草に火をつける。
喜怒哀楽を滅多に出さない岩田にムラが見えて、こいつも人間なんだってちょっと安心しちゃったり。
長身男性は真っ直ぐにバイヤーテツ達の所に向かう。
口元にある鬚がダンディーで、瞳はすごく優しそう。
まさにそう、大人の男!って感じだった。
でもそのすぐ後ろ、大きなその人の背中に隠れて見えなかったけど、ロングヘアーで小柄な女性がピッタリと腕を組んでいて…
「最悪」
えみ先輩の舌打ちが響いたんだ。
何となく、言葉を発せないあたしの前「あーあーよくやるわ、あの子…」ゆき乃先輩のうざったそうな声。
「えみ、俺今夜必要?」
「え?」
「必要?」
…必要とされたいのかな、岩田。
世の中に自分って人間を必要としてくれる人ってどのくらいいるのだろうか?
テツにとってあたしって必要?
チラリとテツに視線を向けると、ちょうどテツもこっちを見たのかパチっと目が合った。
そんなことが嬉しい。
あたしの気持ちはテツの真実を知ったあの日から矛盾だらけだった。
本能で嬉しいと感じる気持ちが大きければテツをすごく愛しているんだって思える反面、ふと現実に戻るような感覚で、やっぱりいけない!って自分を責めてしまうこともよくあって。
その度に誰かに言いたくて、でも言えなくて。
親友にはもしかしたら気づかれているのかもしれないけれど、それでも容易に人に話せる内容なんかじゃない。
でもだからこそ、今日、今…二人の先輩に打ち明けられたことでやっぱり心は軽かった。
「…帰ろうかな岩ちゃんと…」
そう言ったえみ先輩の顔は何だかとっても悲しそう。
聞かなくても分かるえみ先輩の想い。
そして目の前で繰り広げられるのは「大輔がいつもお世話になっています」ペコペコ頭を下げる連れの女…彼女だってすぐに分かった。
そしてあのダイスケさんがえみ先輩の本命だってことも。
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