四六時中ドキドキしているなんて…。
「美月ちゃんごめん、ツッチーきた?」
会議終わりの松本店長に聞かれて。
ツッチー呼びに思わず笑いそうになった。
ツッチーって顔ではない気がするけど。
「はい、いらっしゃいました」
「かっこよかったでしょ?」
…そこ聞くんだ。
松本さんはすごく気さくで話しやすかった。
あたし達新人が馴染みやすいようにってしてくれているのがすごく分かって。
デパート内の恋愛事情にもめっぽう詳しかった。
誰と誰が付き合ってるとか、色んな情報を持っていて、それをペラペラとあたしにまで話してくれるから、口が軽いって認識をもったわけで。
「まぁかっこよかったですけど、あたしは恋より仕事なんで!」
「俺が美月ちゃんの歳のころは女のことしか考えてなかったけどなぁ〜。勿体ない!」
「…いいんです、あたし。これでも前の彼氏と別れたばっかりなんで」
「そうなの?そういう情報早くちょうだいよ!」
「悪用しないでくださいよ、松本さん」
「するわけないよ!」
そう言ってる顔がもう笑ってるんだけどね。
でも仕事の面ではすごく頼りになるし信用もしているし、人望も厚い。
沢山ある靴屋の中でも、ここにこれてあたしは幸せだって思ってる。
「お疲れ様!」
松本さんと話していたら後ろからそう言われて。
まだ会話って会話なんてしていないってのに、その声をあたしの耳というか五感が全て覚えているような感覚だった。
ドキドキしながら振り返ると、そこには今朝とは違うスーツ姿の土田さん。
靴によく似合った黒いスーツを着ていて、やっぱりどう見てもかっこいい。
「松さんどうも。来る時雨水かけられちゃって急きょ原田さんに見立ててもらったの。これ払いますね」
履いてる靴を指差してニッコリ微笑んだ。
松本さんはニタァって笑って「なに?見立てたの?ツッチーの靴」…あきらかにこの場を楽しんでいるのが分かる。
「見立てたって別にそんなんじゃないです。似合いそうなのがあったのでお勧めしただけですよ」
あくまで冷静に、無反応に。
ポーカーフェイスはわりと得意な方だと思う。
思うんだけど…できているのかは自信がない。
「原田さん笑顔ね、笑顔」
よし、無反応成功。
でも、内心胸の中は自分でも想像できなくらいドキドキしていた。
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