本命の男3


「知り合い?」



テツの後ろ、黒沢さんの隣で嬉しそうなゆき乃先輩があたしとテツを見比べてそう聞いた。

たったそれだけのことで内心ドキドキしてしまう。

ただ肩を並べて喋るだけなのに、どこまでが許されないのかすら麻痺しているんじゃないだろうか、あたし。



「あの、土田さんはあたしの店舗の靴も見てくださっているので」



遠慮がちに言うあたしにあくまで営業スマイルのテツ。

左手薬指にはしっかりと嵌められた銀色のリング。

あたしと二人で逢う時はいつもないそれが今日は物凄く目に入って目障りだ。



「へぇーそうなんだ。じゃあ別に紹介いらないね!良平くんも知ってる?美月のこと」



今度は黒沢さんの腕を掴んで聞くゆき乃先輩に、優しい瞳で「うん前に一度会ったことが、ね」あたしにもその優しい瞳が届く。



「はい」

「哲也くん、これさえなければねぇー」



そう言ってゆき乃先輩はテツの手を掴むとエンゲージリングを指でパチンっと弾いた。



「バイヤーさんはすぐ恋愛の対象に入るからみーんなこれ見て残念がってたのよ!」

「勘弁してよゆき乃さん。良平いるからいーでしょ?」



テツが苦笑いで黒沢さんを叩く。



「わたしは最初から良平くん一筋だもの!」



ギュッと腕に抱きつくゆき乃先輩はお酒のせいでか頬がほんのりピンク色に染まっていて。

ホットパンツにコンバースのスニーカーを履いて、大きめのダボッとした胸元の開いたシャツを可愛く着こなしている。

とてもじゃないけどアラサーには見えない。

へたしたらあたしより年下に見える?

薄化粧がよりいっそう可愛さを引き出している気もした。



「いやぁ、照れるね、そう言われると」



黒沢さんが清潔感あふれる黒髪を触りながらまた嬉しそうに微笑む。

うわなんかいいっ!

この2人絶対いい雰囲気っ!!

これはもう時間の問題なんじゃないの?

なんて勝手に思ったんだ。



「本気にしてよ、良平くん?いつもはぐらかすんだからぁ」

「押すねゆき乃さん。こいついがいと奥手だからもっと押してやってよ!」



同級生だったって二人。

プライベートでも仲がいいのも知ってる。

だって全ての闇をあたしに知らせてどん底に突き落としたのは、この人なのだから。



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