司会を務めてくれるのは美月ちゃんとこの松先輩。
ウエディングソングが大音量でかかる中、ドアが開いて――――――――「嘘でしょっ…」
――――――そこにいたのは、黒のタキシード姿の大輔先輩だった。
ポンッと私の背中に触れる剛典の腕。
「剛典、どういうこと?なんで大輔先輩…」
「さっき言いそびれちゃったんだけどさ、えみさんの幸せが俺の幸せって。だからえみさんが一番好きな人に幸せにしてもらってって」
「嫌よ、私は岩ちゃんと幸せになりたいっ」
「そんな泣きそうな顔して言うなよ」
頬に岩ちゃんの手が触れる。
優しく見つめる岩ちゃんはすごく強い瞳で私を真っ直ぐに見つめ返していて。
「だって岩ちゃんがいなきゃ私幸せになんてなれない、」
そう言ったら岩ちゃんの後ろ、敬浩がこっちを見ていた。
思い出すさっきの言葉。
でもそれでも私は岩ちゃんと…
「私が嫌い?」
「好きだよ。誰よりも愛してる。だから幸せになって欲しいんだよ。えみさん俺と結婚するって決めてから、眞木さんとの間でずっと1人で苦しんでたでしょ。分かるんだよ見てるから、誰よりもえみさんのこと見てるから。もうさ素直になってよ。眞木さんとこいってもしもダメだったら、その時こそ俺がえみのこと奪いにいくから。それまで少しだけバイバイ…」
ポンッて軽く背中を押す岩ちゃんに、その瞬間に涙が零れた。
希帆ちゃんと同じ。私の諦めきれない未練がこんな優しい人を傷つけてしまった。
もうどうしたらいいの…
「えみちゃん…」
聞こえた声は大輔先輩。
震えて動けなくなってる私の所まで迎えに来てくれる。
「後は、頼みます、眞木さん」
「うん」
岩ちゃんの声が離れて行く。
その足音が離れていく。
もう戻れない所へ行ってしまう…
この会場にいる人はみんなわかってる?
ただ一人、美月ちゃんだけは泣きながらオロオロしていて。
岩ちゃんを追いかけようと行った先、「美月はえみのこと見届けて。美月の笑顔はわたし達の希望なんだから」強いゆき乃の声が微かに聞こえた。
大輔先輩がゆっくりと私の肩を抱いて真ん中の席まで移動する。
臣が泣いてる美月ちゃんをしっかりと支えているのを見て、苦しみを乗り越えた先にある幸せを少しだけ見つめることができた。
ずっと欲しかった大輔先輩。
何度も諦めようとしてきた。
でも、できなかった。
ふと端の方に希帆ちゃんの姿が見える。
「大輔先輩、希帆ちゃん…」
「うん。希帆も、祝福してくれてる。えみちゃんのその涙は岩ちゃんの為だよね。一緒にその傷、抱えさせてほしい…。必ず幸せに変えるから、いつかきっと笑えるように…」
ギュッと大輔先輩が肩を強く抱く。
ちゃんと私の気持ちを分かってくれている大輔先輩に、さっきとは違う種類の涙が溢れた。
やっぱりこの人には勝てない――――
「大輔先輩っ…」
「もう何も言うな。綺麗な顔が台無しだよ」
会場は、涙と拍手に包まれていた。
私はこの日の涙を決して忘れない―――
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