【side えみ】
「心のモヤモヤとれたの?」
「…――え?」
「俺が気づかないわけないでしょ?」
「ねぇ敬浩。みんなすごく一生懸命してくれてね、私なんかの為に。岩ちゃんと幸せになる為に大輔先輩を断ち切らなきゃって必死だった…」
「俺思うんだけど、幸せにするって言ってくれる奴、岩ちゃんしかいない!とか思ってたろ?」
敬浩に言葉を遮られて私はドキリと胸が脈打った。
確かに思ってたけど。
小さく頷くと、呆れたように息を吐き出した。
「言っとくけど、俺だってできるならお前のことこの手で幸せにしてやりてーってぶっちゃけ今でも思ってるよ?本気でさ。気づいてないだけだから、えみが自分で思う以上にいい女だってこと。この先だってえみがえみでいる限り、そーいう男は普通に現れると思うよ?」
「敬浩…」
人にどう思われているのかというよりかは、周りにいる好きな人には好きであってほしい、なんて思っていた。
そんな風に言ってくれて嬉しい…
「けどお前が岩ちゃんだって思ってるなら岩ちゃんで間違ってねぇよ。幸せにしてもらえよな、世界一…」
まだこれからだって言うのに、みんなが私を泣かそうとしている。
「そろそろ、かな…」
そんな敬浩の言葉とガチャっとドアが開くのが同時に聞こえて、敬浩と入れ替わり外から岩ちゃんが入ってきた。
グレーのタキシードに身を包んだ岩ちゃん。
私を見てニッコリ微笑んだ。
「綺麗だよ、えみさん」
「岩ちゃん、ありがとう…」
「はは、その岩ちゃんってもうやめようよ?えみさんも岩ちゃんになっちゃうから!」
「そうなんだけど、なかなか抜けなくて…えっと、剛典…」
「なんか照れる」
目を細めて笑うと剛典は私の後ろに立った。
今日は本番の式というわけじゃなく、友達だけを呼んでのお披露目だから私もイブニングドレス。
純白のマーメイド型なドレスで、髪が短いから敬浩にエクステをつけてもらってアップにしている。
いつもより大人っぽく見えてる?
私、剛典に相応しい女になれてるかな?
「ね、キスしていい?」
「へ?今?」
「うん。だって今すごい綺麗…」
私の返事を聞く間もなく、剛典の小さなキス。
ギュッと腕を掴んでキスを繰り返す。
名残惜しくリップ音を立てて唇を離すと「やべ、理性が緩んでる!ここでやめとくわ!」なんて笑った。
「あーグロスついちゃったね、今とってあげる」
ティッシュで剛典の光った唇を拭うと優しく微笑んだ。
「幸せ?」
「え?うん」
「俺も。えみさんの幸せが俺の幸せだから、だから…―――」
コンコン。
不意に聞こえたノック音。
ゆき乃と直人くんが迎えに来た。
「えみ、準備できたよ!いいなードレス。直人、わたしは?わたしはいつ着れるの?」
「わかってるって。ちゃんと着せるから指輪とか色々あるの、男には。ね?岩ちゃん!」
結婚をせがまれて嬉しそうな直人くんに、剛典が眉毛を下げて「そうっすね」なんて答えた。
なにか言いかけた剛典の言葉を待ったけどなくて、そのまま2人でゆき乃達に誘導されてMOAIの入口へ移動した。
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