【side ゆき乃】
すっかり元気を取り戻した美月を見て安心する。
臣の美月への愛がどれほどのものか分からないけど、今の美月にとっての臣はわたしにとっての直人と同じなんじゃないかって。
憎まれ口を言いあいっこしている2人を見ていたら、隣にりゅーじが座った。
「はいゆき乃さん、これあげる」
「え?」
見るとそこにはTiffanyの袋。
いつも新作が入るとわたしにプレゼントしてくれるりゅーじ。
もういいのに、そんなの。
「受け取ってよ、これぐらい。セックスしないだけで何も変わらないでしょ?俺達の関係は」
「りゅーじ…」
「さすがに俺も今すぐ新しい恋にいけそうではないけど、ちゃんと探すから。あなたが安心できるように。それから、岩ちゃんのことは任せてよね」
「…うん。ありがとうりゅーじ…」
一大決心を決め込んだ岩ちゃんの大がかりなサプライズにわたし達は一つ返事で応えた。
人を好きになることはとても素晴らしくて、苦しいものだ。
幸せだけが舞い降りてくる恋なんてものはきっとない。
大人になればなるほどそれは自分の気持ちに正直になれなくて、別の道を進もうとすらする。
生まれ持ったこの命、できるのなら全ての人の幸せを願いたい。
出会ったのならば、その人達が幸せであってほしい。
それが傷つき、傷つけられた相手だとしても。
わたしはこの人生を通して直人という心から安心できて必要な人を見つけた。
その想いは数年越しで、自分がどれ程愛していても届くことのない消えていく想いがある中、ようやく実ったもので、これから先ずっと大事にしていきたいと思っている。
そう思える相手に巡り会えたことが幸せなんだと思う。
そしてこの幸せな気持ちを、わたしの周りにいる人全てに伝えたい…
「おーみ」
「なに?」
コテで器用にわたしの髪を巻いていく臣。
「美月のこと、ちゃんと見ててよ?」
「なに今更。言われなくても見てるよ、俺が好きなんだから…」
「わかってるけど、確認したの。それ聞いて安心した」
チラリと臣はわたしと隣のりゅーじを見て深く頷いた。
やっぱり哲也くんからの逃げ道は臣で間違いなかったなー。
もちろんそこに臣の本物の愛があるからこそなんだけど…
「………」
無言で頷く臣にわたしは微笑んだ。
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