夜ご飯を食べることになったあたし達。
先輩達行きつけの立ち飲みbarがシェアハウスから徒歩3分の場所にあるらしくみんなでそこに向かった。
まるでドラマに出てきそうなそこは、大きなさびれたドアを開けると薄暗い空間が広がっている。
階段を降りて奥まで行くと囲みカウンターがあって、そこでお酒と料理が作られている様子。
壁にはダーツがあって、店内はjazzがかかっている。
古びたアンティークがどこか昭和臭を漂わせているのもすごく良い。
「かっこいい!なにこのbar!」
思わずポロッと口にするとゆき乃先輩が振り返って「気に入った?」そう聞かれた。
「はい!とっても!」
「毎日帰りにここでご飯食べて飲んで帰ってるから。美月もここでご飯食べたらいいよ。こいつらみーんなここの常連だから誰かしらいるわよ、いつも」
説明してくれるゆき乃先輩はしっかり隆二と手を繋いでいる。
これ片岡さん見たらまた舌打ちだろうなーなんて、ちょっとだけセンチな気分になったのは一瞬のこと。
だって……―――――「あ、うそっ!」3オクターブぐらいあがったゆき乃先輩の声色。
繋がっていた隆二の手を簡単に解くと小走りで行った先……「うそ」出たのはあたしの声。
「良平くん!」
そう呼んだ先に長身の黒いスーツを着こなしている黒沢バイヤーと、その隣に昼間会ったテツがいたんだ。
「こんばんは」
テツに目もくれないのか、黒沢さんのサイドを取るゆき乃先輩。
これは分かる。
あたしがいくら鈍感といえども、分かる。
「黒沢さんが本命?それとも遊び?」
「本命よ」
小さな呟きを拾ったのはえみ先輩だった。
既に手にはシャンパンが握られていて、同じものをあたしに差し出してくれている。
「あ、いただきます」
それを受け取って一口飲むと、めちゃくちゃ美味しい。
「うわ美味しいですね、これ」
「うん。ここのお酒も料理も絶品。私もゆき乃も一目惚れでダダハマリ!美月ちゃんの口にも合うといいけど」
「合います合います!既にヤバイです!」
「それならよかった」
テーブルにはもうオツマミ的なものもあって、みんなが遠慮なく食べている感じだった。
「今日は敬浩の奢りだから好きなだけ食べて飲んでね!」
「おい聞いてねぇぞ!」
イケメン店長田崎さんがえみ先輩の後ろから顔を出して言うから肩をすくめたら「ご馳走様でっす!」遠慮なく岩田が言うからちょっと可笑しい。
「あらいーじゃない。せっかく美月ちゃんの引越し祝いなんだから!」
田崎さんの肩に手を乗せて耳元で喋るえみ先輩、かっこいい。
満更でもないっぽい田崎さんは、ほんのり鼻の下を伸ばしてあたしを見るとパチっとウインクをした。
「まぁ言われなくても奢っちゃうけどさ!美月ちゃん可愛いーから気に入ったし!マジで今度デートしようよ?」
田崎さんの誘惑に悪い気はしないなんて思ったりして。
「はい」
そう答えてやろうとした時だった。
「こんばんは!昼間ぶりだね美月ちゃん」
聞きなれたテツの声にあたしは視線をそっちに向けた。
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