「結構飲んでる?」
ふわりと片岡さんに抱きついたゆき乃先輩を片手で抱き寄せながらも片岡さんの視線はえみ先輩にいっていて。
「そこそこ」
そう答えたえみ先輩に、ゆき乃先輩を見て「酔ってるの?」なんて優しい口調で聞いた。
頬を膨らませて「なによ。酔ってなきゃ甘えちゃダメなの?」なんて言うゆき乃先輩がめちゃくちゃ可愛くてバタバタする。
その場で足踏みをするあたしを見てトサカがふわりと微笑むからまたドキッとする。
「いや、いいよ。おいで」
両手を広げて待っている片岡さんにゆき乃先輩が笑顔で胸に飛び込んだ。
はぁー…なんて甘い光景。
あたしは人前であんなことできないけど、ゆき乃先輩と片岡さんは許されると思う。
「お前顔ニヤニヤしすぎ。なに?お前もギューされたいの?」
あたしの肩に肘を乗せて耳元でトサカが言うからやっぱりドキドキして、それを知られたくなくてフンッて鼻息荒くその手を払った。
それでも気にしないって感じ、あたしの頭をポンッてするとメニューを手にカウンターの奥にいる黒木店長にボソボソと注文し始めた。
「登坂っち来月試験だから今もう特訓中!」
「え?試験?」
「そー。美月が髪やらせねぇから他の女ので紛らわしてるの」
「あっは!登坂っち最近素直すぎるね?」
「店長みたいになりたくねぇから…」
…ドカッてトサカのスネを蹴ってやった。
それはダメ。
冗談だって分かるけどあたしの前ではNG。
田崎さんだって苦しい気持ち抱えて今があるんだからさー。
「羨ましいやつだな全く。美月ちゃん優しいねぇ、やっぱ俺と付き合わない?」
膝に手をついてあたしを見つめる田崎さんは文句無しにイケメン。
人より少し下ネタが多いだけで。
だけど、素直になるのはいいことだって思う。
田崎さんも次に好きになる人には素直であってほしいから…
「あのあたし、気になってる奴がいるんで…」
悔しいけど、目の前のこの綺麗すぎるオトコと同じ時間をこれからも過ごしていきたい…少なくともそう思ってる。
トサカがまん丸の目であたしを見下ろしていて、咥えた煙草をポロッと口から落とす。
「えみ先輩、あたしも素直になって前に進むから見ててくださいね?」
あたしの言葉にえみ先輩はまたちょっとだけ泣きそうな顔で微笑むと、「先に帰るね」そう言ってMOAIを出て行った。
もしかしたら決着をつけに眞木さんの所に行ったのかもしれない。
心配そうな田崎さんの顔が印象的だった。
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