「あらやっぱり、”トサカ”なんだ、美月ってば、かーわーいー」
ゆき乃先輩がニヤついた顔であたしのコーラにカチンとグラスをくっ付けた。
え、え、えええええっ!!!
自分無意識ですっ!
だけど、どこかホッとする、トサカの存在。
いつだってあたしの傍で、あたしに憎まれ口叩いてるトサカが今、あたしの前からいなくなったら?そう考えると怖くて。
忘れもしないトサカの涙。
確かにあの時のあたしはまだ土田さんしか見えていなかった。
でも、あんな風にあたしの為に、あたしを想って泣いてくれる男なんて、この先トサカ以外にいないんじゃないかって、思ってしまう。
それっていわゆる…―――恋ってやつ?
そう思うと顔が熱くなっていくようで。
「いえあの、そーいう訳じゃ。今はほどほどえみ先輩のことでありまして、わたくしめのことは置いときましょうよ…」
訳の分からない日本語を発すあたしに、えみ先輩もゆき乃先輩も楽しそうに笑ってくれた。
2人が笑ってくれる事が何よりも嬉しいから、あたしも少しは素直になろうと思う。
―――そうして楽しい時間は着々と過ぎていく。
えみ先輩のことは、えみ先輩自身が乗り越えなきゃいけない壁なんだと思う。
でもどんな結果であっても誰も離れていかないし、変わらず傍にいるって。
片岡さんの受け売りだけど。
えみ先輩が幸せになる為なら、あたしは何だってする覚悟だってことが伝えられて嬉しいんだ。
「あ、そういや直人、22cmだったんだーこれ」
相変わらずつくねが好きらしいゆき乃先輩がそれをあたしに差し出してニッコリ微笑む。
一瞬なんの事?って思ったあたしに「結構ビックじゃん直人くん!」なんてえみ先輩が言うから分かってしまった。
その瞬間、MOAIのドアが開いて片岡さんが入って来た。
嘘でしょ、タイミング良すぎ!
その後ろ、トサカとそれから田崎さんが顔を出した。
途端に吃驚するくらい心臓が爆音を立てる。
は?あたしなに?トサカ相手になにドキついてんの?
ジーッと見ていると当たり前に目が合うわけで。
「はぁーすげぇ疲れた…」
あたしの手からコーラを取るとそれを一気に飲み干した。
ゲフッてゲップの後、片眉上げて「ジュースじゃんこれ!」なんて言うんだ。
当たり前だ。
いくら順調に回復してるからって酒ばっか飲み続けるバカがどこにいる!
「なに勝手に飲んでんだ」
「あ?いーじゃん、どーせ店長が奢ってくれるんだから!」
「登坂っちー。おかしい、おかしい!俺女にしか金は出さねぇよ!登坂っちの分は幸せ絶頂の直人くんが出してくれるって!頼んだぞ!」
ポスって片岡さんの肩に手を置く田崎さんに余裕の笑みで「たく、仕方ねぇな。つーか広臣は最初からそのつもりだろ?」…優しい、片岡さん!
ニカッて笑うトサカに、それでもドキドキするあたしはおかしいのだろうか。
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