優しすぎる本音2


その話は想像をはるかに超える絶望で。


「あの日は人生最悪の日だったかも。わたしがダメなのかな?って普段なら思いもしないこと思って直人で試したら当たり前に勃つでしょ。どうして?って物凄い落ち込んだなぁ、」

「え、待って!ゆき乃先輩、片岡さんで試したの?」


驚くあたしにえみ先輩は納得した顔で一言呟いた。


「そりゃ隆二じゃ意味無いわよね。直人くんで正解」


泣き出したゆき乃先輩に今市隆二くんを呼ぼうか?って聞いたえみ先輩の言葉を思い出した。

あの時ゆき乃先輩は自ら片岡さんを選んだ。

それにしても片岡さん…―――「めちゃくちゃ愛されてますね、片岡さんに」胸がギュッとする。

あんな風にゆき乃先輩を愛している片岡さんを素敵だと思うし、そんな片岡さんの愛を独り占めしているゆき乃先輩を羨ましいとさえ思える。


「死んでやろうかと思った。でも、俺がちゃんと抱いてやるから…って言う直人の言葉が本当はすごく嬉しくて…。わたしって結局ずーっと直人のこと忘れてなかったんだろうなーって。抱きしめられて、すごく安心してたの。本当はこの温もりが欲しかったんだって。どっかで気持ち全部閉じ込めちゃってたから今更素直にもなれなくて、だから直人がわたしを好きだって言ってくれた日から、わたしの中での黒沢が恋じゃなくなったのかもしれない。それぐらい自分でも笑っちゃうぐらいどーしようもないぐらい直人のこと気にしてた。今から素直になって直人を好きだって言っても、直人は受け止めてくれるんだって。だから黒沢とそうなった時も、どこか浮ついた気持ちだったのかもしれない。けどやっぱり屈辱!わたし目の前にして勃たたないなんて、こっちから願い下げよ!」


それはゆき乃先輩の本音で。

すごくすごく片岡さんへの強い想いが積もった言葉だった。

だから最後の言葉はもちろんゆき乃先輩らしい言葉だったんだけど、あたしは胸がいっぱいになってしまう。


「え、泣いてる?」


潤んだ瞳のあたしを見てケラケラ笑うゆき乃先輩。

そんなゆき乃先輩の隣で、ほんの少し泣きそうなえみ先輩。

え、えみ先輩?どうしたの?なんでそんな思い詰めたような、顔?

ゆき乃先輩の服の裾を摘むあたしに、その視線がゆっくりとあたしからえみ先輩へと移る。


「岩田えみになる前に、その心ん中のモヤモヤ全部吐き出しなよ、えみ。じゃなきゃ結婚なんてさせない…」


ゆき乃先輩の言葉にいつもあたしやゆき乃先輩、周りを一番に思ってくれているえみ先輩が、声を殺すように涙を浮かべた。

それがえみ先輩の限界なんだって今頃気づくなんて。


「やだ先輩、泣かないで。どうしたんですか?岩田になんかされた?」


えみ先輩に抱きつくあたしの髪をそれでも優しく撫でてくれるえみ先輩。

この人は本当になんて優しい人なんだってつくづく思う。


「美月ちゃん、ゆき乃…―――大輔先輩の告白、断りきれないの私…。もしかしたら今も本当の本当は心の奥底で大輔先輩のこと、愛してるのかもしれない…ずっと、大輔先輩が頭から離れていかない…。でも岩ちゃんと幸せになりたい…こんな最低な私のこと心から愛してくれるのなんて、岩ちゃん以外有り得ない…。私も幸せになりたい…世界で一番愛してる人と、ずっと一緒に居たいよ…」


泣きながら苦しい気持ちを吐き出すえみ先輩の左手薬指には、岩田がプレゼントしたであろう婚約指輪がさんさんと輝いている。

結婚を控えた女がよくなるマリッジブルーなんてもんじゃない。

これは今までずっと溜めてきたえみ先輩の優しすぎる本音だ。

こんないい女を泣かせるなんて、岩田も眞木さんもあたしの敵だ。


「なりましょう、えみ先輩!絶対の絶対に幸せになりましょう!その気持ちに決着つくまで、いやついた後もあたし絶対えみ先輩の傍から離れません!ずっと一生傍にいます!」


それはあの日、土田さんとの決別を決めたあたしにくれた、先輩達の気持ちそのままだった。


「それってプロポーズ?」


泣いてるえみ先輩を前にゆき乃先輩が今度は優しそうに微笑んだんだ。


「そうです!あたしは、トサカとの未来よりもえみ先輩を選びます!!」


スポーツマンシップにのっとって、指を高々と上に上げてポーズを決めた。



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