【side 美月】
「美月ー!臣にデート誘われたんだって?どこ行くの?」
デパートに繁忙期はあんまり関係なく、どちらかというとシーズンごとに忙しいわけで。
ただ年度末でいったん、各スタッフの異動が繰り広げられる。
中には固定スタッフもいて、新人なんてだいたい色んな部署に飛ばされるはずなのにあたしにはその辞令がでることはなかった。
もちろん、バイヤー達も異動で各地に飛び放題で土田さんに続いてゆき乃先輩の黒沢さんもここにきて異動を命じられたらしい。
専らゆき乃先輩にはもう黒沢さんのくの字も心にはなさそうだけど。
「えっ、なんで知ってるんですか!?」
「なんでも知ってるもーん、わたし達!ね、えみ?」
「そうそう、なんでもねー!」
久々の女3人、これまた久々にMOAIに来ていた。
九州出身の黒木店長は今日もあたし達に美味しいお酒と料理を提供してくれている。
少しづつアルコールもとれるようになっていたあたしは、順調に回復しているんだって。
こんなに早く気持ちも身体も落ち着くなんて思いもしなかった。
土田さんとの事はまだ頭にも身体にも残ってはいるけれど、あたしは前に進まないといけない。
常にそう思わせてくれるのは、この2人が傍に居てくれるからだって思う。
「…知らないんです、あたし。トサカが迎えに行く!ってそれだけ。そんなことより、えみ先輩!岩田との結婚式の準備は順調ですか?ドレスどんなの着るんですか?」
「あー美月ちゃんに話逸らされたー。まぁ、いいか!順調よ!」
ポンッてえみ先輩の手があたしの頭を優しく撫でてくれる。
それが心地好くてヘヘって笑うとえみ先輩が微笑んだ。
「ゆき乃先輩は、片岡さんと結婚しないんですか?」
どちらかというと、えみ先輩以上に結婚しちゃいそうなんだけどなぁ、なんて。
つくねをパクついていたゆき乃先輩はあたしの言葉にその先端を舐めるとチュパっと音を立てて放した。
なんていうエロさ!
「結婚するでしょ。わたし直人からのプロポーズ待ってるだけだもん」
幸せそうなゆき乃先輩を見ているのと、あの日の涙がまるで嘘のように思えてくる。
でも―――「先輩、聞いてもいい?」やっぱり知りたい。
あの涙の意味を。
「なに?」
「蒸し返すようでごめんなさい!でも黒沢さんとのデートの日泣いてましたよね。あれはその…」
あたしの言葉に一瞬キョトンとしたものの「あー」って苦笑いを零すゆき乃先輩。
隣のえみ先輩もそのことを忘れていたのか、ハッとしたようにゆき乃先輩を見る。
柚ジンジャーを1口飲むとゆき乃先輩はその可愛らしい口を開いてくれた―――。
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