【side えみ】
美月ちゃんがようやく哲也くんを断ち切るのと同じで、私も約10年分の気持ちを大輔先輩に伝えた。
告白してフラれてすっきりすると思っていた。
きれいさっぱり岩ちゃんのもとにいけるって…
「ハァッ…」
美月ちゃんを元気づける為に毎日、毎夜みんなにドンちゃんしてもらっている。
不倫を断ち切ることがどれだけ辛くて悲しくて大変か。
それに比べたら私の悩みなんてちっぽけなんだと思う。
でも本当の本当はどこかへ消えてしまいたくて。
一人になりたくて…
「どうしたの?最近ずーっと元気ないよね、えみ。俺でよければ聞くよ?」
自分の部屋の窓から外を眺めていた私に声をかけたのは、ゆき乃の直人くんだった。
やっぱり気づいちゃうよね、直人くんは。
苦笑いの後私は困ったように目を逸らした。
「…岩ちゃんはどーして私なんかを選んでくれたのかな…」
私の言葉に真顔の直人くんは、次の瞬間優しく微笑んだ。
「不安なの?岩ちゃんとの結婚」
「不安かも…しれない」
「じゃあ誰だったら不安じゃないの?」
「…―――え?」
「相手が岩ちゃんじゃなくて誰なら安心?敬浩くん?それとも、」
…――――見透かされてる、私。
さすがだよ、直人くん。
「うまく言えないんだけどね…。岩ちゃんを愛してるよ。だけど、すっきりしないの。告白してフラれるはずだったのに、…大輔先輩もう希帆ちゃんと別れてて…それで私とって。別れたばっかりで都合がいいって自分でも言ってた。でも希帆ちゃんを疑い始めてから少しづつ私のこと気にかけてくれていたみたいで…―――断わりきれなくて。あ、でも岩ちゃんと二股とかじゃなくて、考えて欲しい…って言われただけで…。何も答えられなかった。肯定すらしてないけど否定もできないなんて、意味無いよね…。自分がどうしたいのか、分からなくなっちゃって…」
「なるほどなぁー。それはちょっと、辛いな。眞木さんも、戸惑ってる部分が多少なりともあると思う。やっぱり彼女と別れたばっかりでって気持ちがあると思うし。けど逆にそれでもえみに気持ちを伝えてきたことが結構すごいと思うよ。岩ちゃんとのことだって薄々耳に入ってるだろうし、それでも…って。かと言って今のえみがあるのは岩ちゃんのお陰だろ?そーいう穏やかな気持ちも生きていくうえで大事だと思うし…」
ゆき乃とうまくいってる直人くんからは幸せオーラしかなくて。
直人くんだって今まで散々苦しんで、それでも素直になってやっとの思いでゆき乃を掴まえたんだもんね。
「けどさ、やっぱり俺はえみには幸せになって欲しい。まっさらなえみで最高の笑顔見せてほしいな、俺達に。安心しろよ、誰を選んでも俺達は変わらず傍にいるから!な?」
ポンッて直人くんの手が頭に乗っかる。
ポロっと涙が零れ落ちて、慌てて手の甲で拭う。
でもまたすぐに零れちゃって、私の前にタオルを差し出す直人くん。
有言実行、絶対に嘘のない直人くんの言葉だからこそ、心に落ちた。
「ありがと、直人くん。少し楽になった…」
「役に立てたなら光栄だよ」
微笑むと、立ち上がって私の部屋を出て行った。
だけどその3日後、岩ちゃんが私に婚約指輪を持って笑顔でハウスにやってきた。
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