BBQでお祝いして貰った翌日、何日かぶりに出勤した。
「美月ちゃん大丈夫!?胃腸炎で大変だったみたいね。まぁ無理しないで。あれかな?俺の当たりがキツイとか、じゃないよね?」
いつもふざけている松本店長が不安気に真面目な顔して聞くもんだからちょっと可笑しくて。
だけど松本さんだったからここまで頑張れたのも確かだ。
「違いますよ、なんか変なもん食べたんですかね?あたしそんな弱い女じゃないので!」
そう言ってニッコリ笑った瞬間、カツンと足音がした。
ドクンと心臓が大きく脈打つのが分かった。
顔を上げた松本さんが「ツッチー早いね! 」ほらね、間違いない。
ドキドキして心臓が痛い。
今ここにはみんなは当たり前にいない。
あたしが自分で乗り越えなきゃいけない壁だ。
ふぅー。小さく息を吐き出して振り返った。
「おはよう、原田さん」
声をかけたのは土田さんの方だった。
あたしを見て変わらない笑顔でそう言った。
初めて土田さんに会った日を思い出すぐらい眩しくて、苦しい。
「おはようございます、土田さん」
「具合はもういいの?大丈夫?」
「はい。お陰様で元気です!」
「そっか、よかった…」
何か言いたげな瞳はあたしを真っ直ぐに見つめていて。
でも「ツッチー新しい靴なんだけどさ」松本さんが土田さんを独占して、ホッとしている自分がいる。
柔らかい声と甘いトーン。忘れられない土田さんの温もりがあたしの身体を一気に刺激する。
あれから一度も土田さんと連絡もとってないあたしは、先輩達が何をどう言ってくれたのかも知らない。
聞いても教えてくれなさそうだけど。
だけどLINEが消えたことで土田さんにもあたしの意思は伝わっているわけで。
「じゃあそういうことで、また!」
「あ、松さん、原田さん。僕次の人事で異動になると思うんで。引き継ぎは橘ってイケメンなんでどうかよろしくお願いします!」
…うそ、異動!?
異動になんてなったらもう逢えな…「そっか、今までありがとう、ツッチー!元気で頑張れよ!」…それだけ?って思うぐらいあっさりと土田さんに別れを告げる松本さんに、あたしも頭を下げる。
「お世話になりました…土田さんのこと、忘れません…」
これが最後の別れじゃないけど、もしかしたらもう二度と土田さんとは逢えないのかもしれない。
街を歩けば、MOAIに行けばすぐに逢える人のはずなのに、永遠の別れのように思えた。
頭を下げた瞬間、涙が零れ落ちる。
バレちゃダメなのに堪えきれなくて…
顔を上げたらそこにはもう土田さんの姿はなかった。
ポンッて松本さんの手があたしの頭に乗っかる。
え?
「よく頑張ったね、美月ちゃん。ツッチーの前でギリギリ泣かなかったの、偉いぞ!」
優しい微笑みに動揺するけど、涙がボロボロ零れてしまって。
「俺が何も気付いてないわけないだろ。水臭いな、たく。これでも店長だよ?もっと頼りにしてよね、これからは!」
「うう、松本さぁん…」
「ちょっと俺奥さんいるから!」
腕を掴んだら拒否された。
でも「ほら裏で顔直しておいで!」優しく背中を押してくれた。
みんな、みんな大好き!
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