本命の男1


無事に引越し作業も終わった頃にはすっかり夜になっていた。

なんだかんだで、部屋のレイアウトをやってくれた山下さん含めたメンズ達は、あたしの引越しを期に同じように部屋の模様替えをした先輩の手伝いでここに呼ばれたんだって。

トサカと山下さんと三人で美月部屋を作り上げてふぅーっと一息つく。



「気に入らへんわぁ、隆二…」



一人一人の部屋もかなり広いこのシェアハウス。

なんなら客室用にもうひと部屋余っているのが現状で。

山下さんがお勧めしてくれた赤いソファーにグデっと背をつけてボヤいたんだ。



「健二郎さん、あの位置までもあがってないもんね?」



クスクスってトサカがちょっと哀れんだ笑いを堪えていて。

あの位置がどの位置なのか想像するのも面倒だった。


「彼氏ちゃうのにチュッチュしやがって。俺かてええんちゃう?何が違うのん?隆二と俺…」



視線はあきらかにあたしに飛んできていて。

隆二との違い……「顔…優しさ…立ち振る舞い…」思ったことをポンポン口にしていったらトサカがポスッとあたしの肩を叩く。

もうやめとけ!って顔で。

だから山下さんを見たら漫画の主人公並に雨雲を背負って見えた。



「今市隆二くんは、セフレ!?」

「まぁ、そんなもんじゃない?」



あくまで憶測らしいけど、トサカが少しだけ残念そうに微笑むから何だかテツを思い出した。

別にあたしとテツはセフレなんて関係じゃないけど。

世間に公表できない恋をまさか自分がすることになるなんて、ちっとも思っていなかった。



「生まれてこのかた、セフレがいる人が近くにいるとか…初体験!ムフ」

「楽しまんといて、美月ちゃん!ええねん今は。最終的に行き着く場所が山下健二郎であればええねん。俺はゆき乃ちゃんを幸せにする自信があんねん、これでも…」

「届くといいですね、山下さん」

「ええ子やぁー美月ー!!」



山下さんがあたしの髪を撫でた。

ベッドの上に寝転がっていたトサカが山下さんから離すかのごとく、下からあたしの髪をサラリと触って…



「お前毛先傷んでんぞ?今度切ってやるから店こいよ」



美容師アシスタントのトサカ。

どうやら順調に出世して今年から切ることも許されたらしい。

このビジュアルだからすぐにお客もつくだろうとは思うけど。



「友情割引にしてくれる?」

「仕方ねぇからな!店終わってからこいよ。店長休みの日にな!」



ニコッてあたしを見上げるトサカは物凄く無防備で。

えみ先輩だったら馬乗りしてチューぐらいしているかもしれない、なんて未知の世界を思い描いた。

セクシーなえみ先輩に、甘え上手なゆき乃先輩。

あたしはこの2人と仲良くやっていけるかな?

なんの取り柄もないけど、この空間が既に気に入っている。

山下さんの作ってくれたこの部屋で始まる新しい生活。

期待と希望を胸に、新たな一年が幕を開けた。



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