「たぶんこれ反則行為だって思うんだけど…」
直人くんが美月ちゃんの肩に手を乗せる。
キョトンと直人くんを見つめる私達にそっと微笑む直人くん。
「広臣と二人で流れ星見たよね?…あの時臣、美月ちゃんに運命感じたんだって。こんな汚い都会の空の下、偶然にも一緒に流れ星を見た美月ちゃんに…。それから意識し始めて、酔った勢いで寝ている美月ちゃんにキスしちゃったこともあって…。やっとね、広臣自身が美月ちゃんへの想いを愛だって認めて、ちゃんと自分で言葉にしたい…って決心したんだよ。あの涙は全部ホンモノ、嘘なんて一つもないの…」
そこまで言うと、一度息を吐き出す直人くん。
それからゆき乃に視線を移すと優しく微笑む。
「俺とゆき乃、結婚する」
「えっ!?」
聞こえた声はゆき乃のもので。
だけどそれをスルーして続ける直人くん。
「そしたら俺達夫婦になるの。愛しあって子供だって生まれるだろうし。もしもだよ、そんな俺達の夫婦生活がうまくいかなくて、俺が他の女と浮気したら美月ちゃんどうする?」
ポロポロと美月ちゃんの頬を涙がつたっていく。
首を振って「イヤ…」そう言うのが精一杯な美月ちゃん。
もしもの話だとしても、そんなの私だって許さない。
「ゆき乃が出来心で隆二と寝ちゃったとして、それに気づいた俺がやっけになって他の女と浮気して…―――本気で好きになっちゃったらさ…ゆき乃可哀想じゃない?」
無言で頷く美月ちゃんに直人くんが両手で肩に触れた。
縋るように美月ちゃんに顔を埋める直人くんは、すぐに顔を上げて真っ直ぐに美月ちゃんを見つめた。
「美月ちゃんに哲也さん達の人生は背負えない。無理だよ。広臣のお姉さんの二の舞いにはしたくないし、隆二と寝て紛らわせることで自分を保っていたゆき乃のようにもしたくない。今ここで引かなきゃ美月ちゃんはぶっ壊れちまう…。苦しくて辛くて悲しくてすげぇ落ち込むと思うけど、それでも俺達は美月ちゃんのこと見捨てないし、離れない。誰一人離れないから…―――別れなさい、哲也さんと。美月ちゃんだけを愛してくれる奴、絶対いるから、俺達の言葉信じて、今、別れなさい…」
ちょっと厳しすぎるよって思ったけど、そこまで言った直人くんに感謝しかない。
そしてここまで聞く耳を持てた美月ちゃんを褒めてあげなきゃって。
愛している人と別れることがどれだけ辛いのか、私達も一緒に乗り越えるからね。
「ゆき乃先輩、えみ先輩、ずっと一緒にいてくれる?」
泣きながらそんな可愛いことを言う美月ちゃんの髪を2人で撫でた。
「いるわよ、ずーっと、ずーっと」
「うん、一緒にいる」
ゆき乃も微笑んでそう言う。
「…―――ごめんなさっ…」
美月ちゃんのその言葉にここにいる全員がホッと胸をなでおろした。
今まで苦しんできた分、次に好きになる人には思いっきり嫌って程、甘やかして貰わないとね。
「後は俺達がなんとかするから!」
敬浩がポンポンって美月ちゃんの頭を撫でる。
最後の力を振り絞って私達の気持ちに応えた美月ちゃんは、泣き疲れてそのまま意識を手放した。
「美月、ゆっくりおやすみ」
ゆき乃と2人で美月ちゃんをベッドに寝かせてリビングへ戻る。
まだ私の話は終わっていない。
だけどさっき美月ちゃんが言ってくれた言葉はスーッと胸に落ちて。
私の諦めきれない大輔先輩への想いは悪くない…そう言ってくれたことがすごく有難かった。
辛い環境に身を置いている美月ちゃんだからこそ、人を好きになるのに誰のせいでもない…そう言えたんじゃないかって思えたんだ。
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