【side えみ】
哲也くん達が帰ったここ、私達のシェアハウス。
臣も美月ちゃんの看病で疲れてるからって、隆二が無理やり連れて帰った。
健ちゃんも静かに帰って行って…
続いて帰ろうとした敬浩を私が呼び止めた。
まだ終わっていない。
今朝岩ちゃんに軽く話した。
時間もあまりなかったから掻い摘んで話しただけで。
美月ちゃんは体力不足で敬浩に寄り掛かって目を閉じている。
辛いのにごめんね。
でもちゃんと聞いてて欲しくて。
目の前にゆき乃と直人くんが並んで座っているのが何だか嬉しくて落ち着く。
「…大輔先輩、大学の頃私のこ好きでいてくれていたみたいで、だけど私と大輔先輩が想いあってることに気づいた希帆ちゃんが…色々裏工作して想いが伝わらないようにしたって…別に今更どうこうはないけど…もしかしたら希帆ちゃんは先輩と別れる覚悟なのかもしれないって…」
美月ちゃんの横で敬浩が眉間にシワを寄せた。
岩ちゃんは、私の後ろにいるからどんな顔をしているのか分からない。
だけどいい顔なんてしていないって分かる。
ゆき乃は悲しそうな顔で、美月ちゃんは閉じていた目を見開いている。
直人くんだけは冷静に私を真っ直ぐに見ていて少しだけ安心した。
「昨日は動揺しちゃって泣いちゃってごめんね…」
微かに微笑むとゆき乃が「ばかだな、えみは…」ふわりと私を抱きしめた。
「今泣かないでいつ泣くのよ?」
ギュッと強く私を抱きしめるゆき乃の温かさに、その温もりの優しさに止まったはずの涙がまた零れ落ちる。
「希帆ちゃんこんな私のこと、憧れてくれてて、ずっと一人で苦しめてた。私の大輔先輩への断ち切れない想いが、ずっと今まで希帆ちゃんを苦しめていたの。もう、どうしたらいいのか分かんない…」
止まらない涙がゆき乃の服を濡らしていく。
シーンとしたこの部屋に、ずっと黙っていた美月ちゃんが掠れた声で私の為にその言葉を繋げてくれる。
「えみ先輩、違う。苦しかったとしてもえみ先輩のせいじゃない。誰が誰を好きなことに誰のせいもない。眞木さんの彼女だって絶対分かってる」
私の為に身を削って泣いてくれる美月ちゃんは、ソファーから這い降りて震える身体で一歩一歩私達にハイハイで近づいてきた。
ゆき乃と2人でそんな美月ちゃんを待っていると、「ごめんなさいっ」泣きながら美月ちゃんが私達の中に飛び込んできた。
「えみ先輩は優しいから困らせちゃうからきっと今まで言えなかったんだと思います」
「美月ちゃん…」
「いつだってえみ先輩の言葉は正しい。あたしに言ってくれた言葉も…きっと正しい…。自分でも分かってるんです、でも自分じゃどうにもできない、今まで話す相手もいなくて何が正しいのかもやっぱり分からなくて、先輩、あたしどうしたらいいの?テツが好き。テツだけが好き。でもやっぱり壊せない…―――苦しいよっ」
やっと聞けた美月ちゃんの本音に、私もゆき乃もぎゅーっと抱きしめる。
「大丈夫絶対助けてあげる。何があっても美月ちゃんのこと、守ってあげる」
結束バンド並に抱き合う私達を見て直人くんが「こら、メンズを忘れるな!」ポカッと私の頭を叩いた。
直人くんてば、ゆき乃のことは絶対叩かなそう、なんてこの期に及んで思えるけど。
そんな環境にいることが、やっぱりちょっと嬉しかったりする。
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