「あのあの、あたしトイレ行ってきます!」
どうにもいたたまれなくて思わず部屋を飛び出した。
とりあえずトイレから出てリビングを覗くとテレビの配線をいじっている片岡さん。
その後ろでTiffany隆二とゆき乃先輩が新しいカタログを見ている。
「これ可愛いんだよなぁ。手に入りそう?」
ホットパンツから伸びた綺麗な足がパタパタとしていて、頬杖をついているゆき乃先輩は、セミロングの髪を緩く編み込んでいてラフに眼鏡もかけている。
ザ、休日って感じ。
「あ、じつは、ゆき乃さんが欲しがりそうって思って一個だけ回して貰えそうなんだよね」
「ほんとっ?もうりゅーじ、大好き!」
ギューッて隆二の腕に抱きつくゆき乃先輩を思いっきり片岡さんが睨んでいる。
「お前らどっか行けよ!?マジ金取るよ?えみがどーしてもっつーから見てやってんのに、イチャイチャしてんじゃねぇよ!」
怒鳴り散らす片岡さんの言葉を1ミリも聞いてないって顔でスルーして隆二に更に抱きつくゆき乃先輩。
隆二も隆二で満更でもないって顔しちゃって…
「お前も来る物拒まずかい?」
すんごい小声で言ったのに「え?俺のこと?」自分を指さして振り返った隆二にドキッとした。
はい?聞こえたの?すごい地獄耳…
「いや、岩田が自分でそう言ってて…」
「あはは、岩ちゃんね!確かに岩ちゃんはそうかも!」
いやいや何も可笑しくないんだけど、あたし。
隆二もゆき乃先輩も笑ってるけど。
「えじゃあ、わたしも岩ちゃん誘惑したらのってくれるかなぁ…」
ゆき乃先輩が唇を尖らせてそんなことを言ってるのが聞こえたのか、トサカ並の舌打ちが片岡さんから聞こえた。
「え、だめだって、ゆき乃さんは俺専属でしょ?俺やだもん、岩ちゃんに抱かれるゆき乃さんなんて想像したくないよ」
「ばかじゃねぇの」
隆二の言葉に片岡さんが結構マジ切れしてるように見える。
「ちょっとさっきから本当うるさいんだけど、片岡。なに?ヤキモチ?そーいうのすごい迷惑だから勘弁して」
呆れた顔のゆき乃先輩に片岡さんが目を逸らした。
「話になんねぇ。なんで俺がヤキモチ妬かなきゃなんねぇんだよ。頼まれても無理だっつーの!はい、配線終わったからこれでBS映る。俺午後シフトだから帰る」
片岡さんは入口に突っ立ってたあたしに気づくとニコッと微笑んだ。
「美月ちゃん、本当にこんなとこ来ちゃって可哀想に。何かされたら俺相談のるからいつでも連絡してな?お兄さんが守ってやっからね?」
ポンポンって頭を軽く撫でられた。
男にしては身長低めの片岡さんとはあまり目線が変わらなくて。
いやそれでも全然あたしのが小さいけど。
だから他のメンズよりも距離が近く感じる。
何だかいい匂いもするし、八重歯可愛いし。
「いえあの…」
「じゃーな」
あたしの曖昧な返事に微笑んで片岡さんはそのまま玄関の方に歩いて行く。
何だかこのまま帰しちゃいけない気がして、あたしは慌てて後を追う。
「いいのに見送りなんて、ありがとう!優しいんだね美月ちゃん。心配しなくても俺アイツといつもこうだから気にしなくていいから」
「仲悪いんですか?」
「…俺がガキなだけ。これからよろしくね?」
もう一度スッと片岡さんの手があたしに差し出された。
その手を握るとギュッと力が込められる。
「今度お店遊びにおいで?」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあまたね」
「はい、お仕事頑張ってください」
「サンキュー」
笑顔で手を振って帰っていく片岡さん。
ガキなだけって言ったけど…
え、それってもしかしてもしかして、え、え、
「好きなの?ゆき乃先輩のこと!!」
別にそう言ったわけじゃないけど、そんな気がしてならなかった。
だったらさっきの隆二との会話も舌打ちぐらいしちゃうよね。
あーなんかドキドキする。
あたしが言われたんじゃないけど、何だか胸の奥がムズ痒かった。
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