夜遅くシェアハウスに帰った。
リビングには当たり前に明かりがついていて、「えみ、お帰り」ゆき乃が笑顔で迎えてくれる。
ゆき乃の顔を見た瞬間、気が抜けたようにその場にフラリと倒れた。
「うおっ!えみさんっ!?」
近くにいた臣が抱き抱えてソファーに運んでくれる。
緊張が解けたせいか、身体が震える。
臣が心配そうに見ていて。
「えみ、どうしたの?なにがあったの?」
「あ、美月ちゃん大丈夫?ゆき乃はご飯ちゃんと食べた?直人くん、いつもありがとう。臣も、来てくれてありがとう…」
「えみッ!」
ゆき乃が私の肩をガシッと掴む。
ダメだ、もうダメだ。
ゆき乃の温もりに触れてまた涙が溢れる。
ふわりと私を抱きしめるゆき乃にぶわっと涙が次から次へと零れる。
「何があったのよ、えみ。人の心配より自分の心配しなさいよ、ばか。わたしは大丈夫。美月はまだよくはないけど、臣が付きっきりだから。もうすぐ岩ちゃんも来るよ、ここに。眞木さんと会ったんだよね?」
「ゆき乃…助けて」
その後は言葉にならなくて。
色んなこと話したいのに、涙が先行して嗚咽が堪えきれなくてただただ泣いていたんだ。
しばらくしたら岩ちゃんがやって来た。
こんな私見られたくない。
臣の後ろに隠れて見るけど「えみさん」ギュッと抱きしめられる。
そのまま抱き上げられて部屋に運ばれた。
ベッドの上に優しく下ろされて、私の髪を優しく撫でてくれる。
どうして何も聞かないの?
なんでそんな優しいの?
「岩ちゃん…」
「いいよ」
「………」
「今夜は何も聞かない。明日聞かせて?」
小さく頷くと、そっと私を抱きしめた。
泣きすぎて頭が痛い。
大輔先輩を好きになって、これ程までに苦しい気持ちは初めてだった。
私はこれからどうしたらいいのだろうか?
大輔先輩にしてあげられることってなに?
希帆ちゃんに言ってあげられることってある?
ねぇ、岩ちゃん…
「一人にしないで…」
「しないよ。子守歌でも歌ってやるよ」
ニッて口角をあげて小さく歌う岩ちゃんの声と呼吸の心地よさに、私はぐっすり眠ったんだった。
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