「なんか…―――あの頃えみちゃんに想いを伝えていたら、また違う未来があったのかな…」
…はい!?
あの頃?
オモイヲツタエテイタラ?
なに、言ってんの?
熱い視線を飛ばす大輔先輩は、クスっと微笑んで軽々しく言ったんだ。
「ずっとえみちゃんのこと、好きだったんだ俺…」
どーいうこと!?
頭が真っ白なんですけど。
その後大輔先輩が何かを話していたけど、何も耳に入ってこなかった。
こんなこと、初めて。
今更どうすることもできないけど、なんだろうかこの悔しさ。
ピンポーン。
気づいたらここに来ていた。
ガチャっとドアが開くと、眩しいくらい綺麗な希帆ちゃんが待っていたかのような顔で出迎えてくれた。
「えみ先輩。来ると思ってました…。あがってください」
「あの、希帆ちゃん…」
「とにかくあがってください」
「うん…」
おぼつかない足でトロトロと歩く。
来ると思ってた?
なんでよ?
「ここのケーキすごく美味しいんですよ!先輩も食べるでしょ?」
昨日と随分態度違うじゃん。
一口食べたら本当に美味しくてゆき乃と美月ちゃんにも食べさせてあげたくなった。
「大輔に、何聞きました?」
「………」
「私が他に男がいるって?それとも、先輩達本当は両想いだったって?それとも、」
「希帆ちゃん!もういいからっ!!」
ポロポロ涙を零す希帆ちゃん。
肩を震わせて泣いてる希帆ちゃんの背中を撫でる。
「いっつもそうです、そうやってえみ先輩は簡単に人の心を持ってっちゃう!みんなも、大輔も!!私には真似なんてできない。勝てるものなんて何一つないんですっ、えみ先輩にっ…」
ワアアアア――――――って、ゆき乃や美月ちゃんに似た泣き叫ぶ声に私まで泣きそうになる。
目の前で泣き崩れているこの子を苦しめていたのは、私の方なの?
「知ってたんです、えみ先輩が大輔を好きだったことも、大輔がえみ先輩を好きだったことも。だけどそれでも私も大輔を好きだったから、だから全部壊したんです!二人が想いあってる事実も全部…ごめんなさいっ…」
ボーッとする。
希帆ちゃんの言葉もどこか遠くで聞こえているような気がする。
でもこれは現実で。
「えみ先輩に言わせないように、私が先に大輔が好き!って公言して、えみ先輩は他に好きな人がいるって大輔に言い続けてようやく私を見て貰ったんです。だけどずっと心の中に残ってて。私の想いなんか吹き飛ばすくらい二人が自分達の想いに気づいたらどうしよう?って。いつも怖くて不安で信じきれなくて、心の隙間を好きでもない男で埋めることしかできなくて…―――苦しくて…」
嘘でしょ…。
焦点が合わない。
どこ見たらいいの?
目の前で泣きながらも真実を話してくれる希帆ちゃんを受け止めないとって思うけど、できそうもないよ。
「ずっと憧れてたんです、えみ先輩に。いつもみんなの中心にいるえみ先輩みたいに素敵な女性になりたいって。誰にでも優しくてみんなから信用されて愛されてるえみ先輩みたいに私もなりたいって…―――ごめんなさいっ…本当にごめんなさいっ…」
ポロりと涙が零れた。
すぐに手で拭うけど、止まらなくて。
次から次へと流れてくる涙を手で拭うだけで精一杯だった。
誰か助けて。
助けて、岩ちゃん…――――――
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