時計の針はお昼を過ぎた所だった。
朝が早かったせいか、まだ思った以上に時間はたっぷりある。
女の独り暮らしの引越しはこんなに簡単に終わるもん?
「色気のねぇ下着だなー」
聞こえた声に振り返ると岩田がダンボールに顔を突っ込んでいて。
中に入っているあたしの下着を物色している。
ありえない。
「ちょっと、何すんだ!?この変態っ!」
「え、俺変態?ねぇえみさぁん、俺って変態?」
ブラを指で摘みあげながら視線だけ後ろに向けて甘えた声。
そこには涼しい顔したえみ先輩がいて、岩田の首に後ろからフワッと抱きついた。
「うーん。時々変態?でも嫌いじゃないよ私はそんな岩ちゃんも!」
「だよねっ?んじゃ俺変態でもいーや。えみさん今日も可愛い!チューして?」
おいっ!!
おいおいおいっ!!
僭越ながらえみ先輩っ!!!
ここあたしの部屋っ!!
そんでもって岩田!!
何してんだよっ!!!
「だめだめ。私人前でしないタイプだから。ゆき乃と違って!」
「ちぇー。んじゃ後でいいや」
「……はのぉ…」
あたしの消えそうな声に二人同時にこっちを見た。
さも、邪魔そうな顔で。
「ずびばぜん…お2人は付き合ってらっしゃるんですか?」
「まさか!遊んでるだけ。ね?」
「そうそう。俺来る物拒まずよ!」
何その笑顔。
岩田の目笑ってないし。
遊び!?
遊びなの!?
そこに愛はないのっ!?
「なぁにー美月ちゃん!これぐらいみんなやってるから」
えみ先輩、涼しい顔して結構ショックっす。
一人壁ドンでゴツっと頭をぶつけるあたしに、救世主田崎さん。
「はいはい、離れてねー。美月ちゃん本気にしないでねーこいつら。いつもこうなの。寂しいと眠れないって真夜中に呼び出される身にもなれってなぁ?」
「……しぇんぱい、自分分かんないっす」
救世主の言ってることも分かんねぇし、一体どんな関係なんだよ。
見つめるえみ先輩は別にどうってことないって顔。
美人だから全然遊ばれてもいいけど、いないのかな、彼氏。
「え、えみ先輩付き合ってる人いますよね?」
だからつい聞いたんだ。
だって絶対いるはずって。
えみ先輩に似合う素敵な人が。
あたしを見てニッコリ微笑むえみ先輩は「美月、続きは今夜って言ったよね?」……ごめんなさいっ!
えみ先輩目が笑ってない。
この人敵に回しちゃダメだ絶対!!
背筋がピンとしてあたしは裏返った声で「はいいいいっ!」って叫んだんだ。
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