「ゆき乃はどこ行くの?」
「哲也くんとさし!」
「俺も行く」
声に振り返ると、sevenに身を包んだ直人がいる。
「それなら安心」
敬浩が優しく微笑んだ。
「たかぼー、えみのこと頼むよ?ちゃんと様子見に行ってね?」
「はいよ〜」
軽く手を振る敬浩を背にわたし達はデパート内を歩き始める。
11月に入った途端内装もハロウインからクリスマスに大変身。
「早ええな…クリスマス…」
「うん」
「今年は?誰と過ごすの?」
チラリと直人がわたしを見てそう聞く。
結局一人でいられないわたし達は毎年MOAIで飲んでた。
そのまま隆二と部屋で…って。
今年は…――今年こそは…
「ちなみに俺は毎年空けてる…お前のために…」
「直人って意外と確信犯だよね?」
「なんとでも言えよ。もう嘘もつかねぇし、気持ちも隠さないって決めたから俺。隆二にも健二郎にも負けらんねぇ…」
直球を投げ込む直人はエースナンバー1を背に背負っていた良平くんのすぐ後ろまで来ているような気がした。
なんなら片腕掴んでいて、バッドを思いっきり振り上げているのかもしれない。
「直人…。わたし、立ち直れるかな…」
無言で俯くわたしの手にキュっと直人が触れる。
指先をちょこんと繋ぐ程度だけど、触れたそこはとても温かい。
「心配すんな。俺の人生お前にくれてやる。どんなゆき乃も、俺は愛してる…」
こんなにも、「愛してる」が心地良いものなんだって、心から思えるなんて。
直人の温もりが今は必要で、わたしはキュっと直人の指をもっと深く絡めた。
二人で社内カフェに顔を出す。
思わず足を止めたのは、哲也くんの隣に良平くんもいたからで。
スッと手を離すわたしに、直人が優しく微笑む。
ゆっくりとそっちに近づくわたし達に、足音に気づいて振り返ったんだ、二人が。
「ゆき乃さん…」
気まずそうな良平くんの声。
顔、見れない…
俯いたまま「こんにちは」って小さく挨拶をした。
「哲也くん、少し話せる?」
わたしがそう言ったすぐ後、「黒沢さん、この前のあれ…」直人が良平くんに仕事の話を持ちかけてくれた。
後ろ手でわたしの背中を押してくれた直人は、良平くんをわたしから離してくれて。
真剣な顔の哲也くんを少し強引に連れ出した。
社内だと誰に聞かれるかたまったもんじゃないし、会社から少し離れたカフェに二人で入った。
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