岩ちゃんの守り方2


【side ゆき乃】



朝起きたら顔がパンパンに腫れていて。

隣には直人。

わたしを守るようにギュッと抱きしめて眠っていた。

そっと頬に触れると薄ら目を開ける。

わたしを見てカアーっと顔を赤くする直人にちょっとだけ笑った。



「はよ。気分は?」

「最悪…。目があかない…だから直人もいつもよりちょっとだけかっこよく見える」

「そりゃよかった」

「…喉痛い。今日休みでよかった」

「俺も」

「直人も?」

「うん。シフト全部お前に合わせてある」

「…え、ストーカー?」

「そう、ストーカー!仕方ないだろ、それでも傍にいたいんだから」



そう言いながらまたわたしを抱き寄せた。



「直人って…甘えん坊?」

「うるせえよ」

「ドキドキしすぎじゃない?」



心臓が当たっていて、激しく音をたてているから。




「気にすんな」

「何か、可愛い。キスぐらいしてあげようか?」

「………」



無言のまま目を泳がせているから迷ってるんだって。

だから直人にほんの少し顔を寄せると、その視線はわたしの唇を真っ直ぐに見つめていて…




「んー」




唇を軽く突き出すと、カアーってまた顔を赤くしてくるりと背を向けた。

追い討ちをかけるように後ろから直人の身体に腕を回して抱きつく。




「理性…理性…理性…」




お経のようにぶつぶつ言う直人がいてくれなかったら、わたしは川に身を投げていたかもしれない。

それぐらい酷く傷ついた。

でも時間は当たり前に止まってもくれず…




リビングに顔を出すとそこに岩ちゃんが転がって寝ていた。




「あれ?えみは?岩ちゃん、起きて。風邪引くよ?」




腕を揺すると岩ちゃんがボヤっと目を開けた。

わたしを見て悲しそうに微笑む。




「ゆき乃さん、ひでぇ顔…」

「な!仕方無いでしょ…」

「でもよかった。思ったより元気で。もっと死んでるかと思った。直人さんって結構癒し系なのかな?」




確かに、岩ちゃんに言われて思う。

酷く傷ついたわりには元気だって。

お腹も空いてるし。




「何してんの、こんなとこで」




直人が言うと「ああ、待ってたんです、ゆき乃さん出てくんの…」昨日、わたしと直人が部屋に籠った後のことを岩ちゃんは包み隠さず全部話してくれたんだ。




「えみ…」

「全部一人で背負ってんのえみさん。ねぇゆき乃さん。えみさんだけを悪者にしないで?見てらんない、あんな気張ってるえみさん。自分が悪者になってでも美月のこと助けるって…。俺えみさんの幸せの為ならなんだってする。えみさんだけを悪者に何て絶対させねぇ」



静かだけど物凄いえみへの想いを感じた。

来るもの拒まずをうたっていた岩ちゃんだったけど、本気で好きなんじゃんね、えみのこと。

何だか岩ちゃんにならえみを任せられるって思って泣けてきた。




「分かってる。えみ…眞木さんと出逢う前、好きだった人が自分の友達を選んだことがあって…不倫とはわけが違うけど、色々重ねて思い出してんだと思うの、美月と哲也くんのことで…。すごくすごく苦しくて、色んな心の黒い部分をちゃんと分かってるから、だから今なんだと思う。今ならまだ傷ついても美月は引き返せるって…。えみがそう言うなら間違いないよね。わたしも美月のこと守るよ…えみのことも…」



安心したように笑った岩ちゃんはそれから思い出したかのように続けたんだ。



「ところでゆき乃さんは大丈夫!?」




まるでとってつけたかのように…

本当、えみのことが一番なんだなって、それだけでわたしまで嬉しくなる。


眞木さんを超える人、すぐ近くにいるのかもね、えみ。




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