■ 大きすぎた壁1


『広臣遅いな…』


信じていても不安になってしまう。

それほどまでに今日という日が大事で、大切な日だから。

苛々を抑えるようにあたしは大きく深呼吸を繰り返した。


暴走族チームoneの溜まり場、青倉庫。

ここに集うみんなはTOPにいるタカヒロと共にこのチームの一員であることを少なからず誇りに思っているに違いない。

そんなタカヒロが「全員残れ、大事な話がある…」チームにそう告げたのは、この暴走が始まる寸前だった。

以前にあたしとノリとのことを解決した時は、お盆中でほとんど誰もいなくて、その真実を知るのはあたし達だけだった。

けれど、今回のゆきみと哲也くんの件に関してチーム全員残すというのはそう…ある意味あたしの為なんじゃないかって。

暴走を終えたチームメイト達が次々とここ青倉庫に戻ってくる中、あたしはお目当てである広臣のバイクを見つけてそこに駆け寄った。



『ゆきみっ!』


待ち構えていたであろうあたしを見て、ほんの一瞬キョトンとしたものの、すぐに笑顔で『奈々!』あたしのところに来てくれるゆきみ。


『少しだけ待ってね?』


あたしの言葉にハテナを浮かべたものの、『うん…』小さく頷いたんだ。

そんなあたし達の視界に入ったこの場所にもっとも不似合いなバイクにチーム全員の目つきが一瞬にして変わった。

でも、そんな奴を迎え入れたのは他の誰でもないタカヒロで。

静かにバイクを止めたワタルはあたし達というよりは、ゆきみを見て厭らしく口端を緩めると、こちらに向かってゆっくりと歩いてくる。



『なんで…?何でワタルがいるの?』



意味がわからないって顔で、でも動揺を隠し切れていないゆきみがあたしを振り返って見た。

それと同時に、暴走最後尾にいたであろう直人とケンチがサラシ姿だけでここに戻ってきて。

見計らったかのよう、VIPから出てきたのは哲也くんとタカヒロだった。



「ようゆきみ」


そう呟いたのはワタルで。

でも、哲也くんの少し後ろ、この前ゆきみと同じ場所に座らせていた女を見て、ほんの一瞬目の色を変えたのをあたしは見逃さなかった。



『奈々…』



不安気にあたしを見つめるゆきみを安心させてあげようと、そっとその手を握ったら、すぐにギュっと強く握りしめてくる。

視線をゆきみと絡ませて『大丈夫だから』一言そう言うと、不安色が隠せていなかったゆきみの瞳があたしの言葉を信じてくれたように、強くなった気がした。



「ゆきみ」


だから名前を呼ぶ哲也くんを見つめるゆきみの瞳も強くて…

でも動くことのできないゆきみに「大丈夫だ」そんな言葉が届いたんだ。



- 174 -

prev / next

[TOP]