■ 親友1


【side 奈々】




苦しくて苦しくてもがいていたあの頃


差し出してくれたその手があったから


あたしがここにいるんだ


今度はあたしが手を差し伸べるから


待っていて…――――




――――――――――――――――――



その知らせがあたしの耳に入ったのは新学期が始まってからだった。



『哲也くんと別れたって…ゆきみ?』



今だ信じられないって思いながらも、学校に姿を見せることのない哲也くんやタカヒロに聞けるわけもなく。

ケンチの病院に付きっきりのあたしは、情報難民状態で。

冬休みが終わって学校に行ったらそんな噂が飛び交っていたんだ。


ゆきみの腕を掴んでそう聞くと『あ、うん』…なんてことないって感じにそう答えた。



『なんで?』



だってゆきみと哲也くんが別れる理由なんてどこにも見つからない!

あたしとタカヒロだったらまだしも、ゆきみと哲也くんは誰が見てもお似合いだし、何よりずっとゆきみを一筋に想ってきた哲也くんが、そう簡単にゆきみを離すわけがない。

ゆきみだってずっとノリと哲也くんとの間で苦しんでいて、やっと幸せを掴んだはずなのに、どうして…



『直人が好きだから…』



そう言ってニッコリ笑うゆきみ。

笑っているのに、泣いてるみたいな笑顔じゃん。

どうしてゆきみを苦しめるのよ…





『ワタルと何があったの?』



あたしがそう聞くと、ほんの一瞬眉毛をピクっとさせて視線をズラした。

だから絶対にワタル関係で何かがあったんだって、確信した。

ゆきみがあたしを親友だって思ってくれている気持ちそのまんま、あたしだってゆきみを親友だって思っている。

だから、親友が苦しんでいることぐらい分かる。

ゆきみだから、分かっちゃうんだよ…。



『話して…一人で解決しようとしないで。哲也くんが傍にいないゆきみなんて、ゆきみじゃないよ。あたしはゆきみの何?』

『…奈々…』

『あの闇からあたしを救いだしてくれたのは、誰?』

『奈々…』

『ゆきみが一人で苦しむことじゃない。親友だったら半分個でしょ?』



…気づいたらあたしの方が泣いていた。

あたしをジッと見つめていたゆきみはフワリと笑うと『ありがとう』そう言ってあたしを屋上に連れて行ったんだ。



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