■ 制御1




このままどこか…


どこか遠くにいってしまいたい…


ただそれだけ…―――




―――――――――――――――



自分から逃げ出したくせに、追いかけてこない哲也を悲しく思った。


当たり前のことなのに、その程度の気持ちだったのか?と思うと、泣けてくる。


哲也に限ってそんなこと絶対に違うって分かっているのに、わたしはもうこうするしか思い浮かばなかった。


でもきっとこれで、哲也は自由に動けるはず。


直人が動けない分、哲也が動けるはず。


だからこれでいい。


奈々をワタルの所にやるぐらいなら、このくらい平気、どうってことない。



「ゆきみ?」



青倉庫には行かないでって言ったわたしに、直人は自分の家に連れてきてくれた。


兄弟の多い直人の家は、アットホームな雰囲気で、とても温かい。


長男らしい直人、まだ小学生の妹と弟、中学生の妹と弟も快くわたしを迎えてくれた。


中学生の二人は、わたしを見るなり「本物のゆきみだ」って言葉。


そんな言葉に笑ってしまった。


ご両親は共働きで、家事は妹二人が担当しているらしい。


放任主義なこの家は、アットホームだけれど、どこか哲也の家と同じような寂しさを抱えている気もした。



『うん?』


「なんかあった?哲也さん…すげぇ怒ってたけど…」


『うん…』



ベッドの上で俯くわたしの顔を覗き込むように直人は下から見つめている。


こんな言葉、許されないって思う。


わたしがもしもゆきみじゃなくて、直人を好きなただの女だったなら、『何様?』って思うに違いない。


自分でも分かっているし、酷いと思う。



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