■ 悲しい嘘1




もう誰も傷つけたくない



この先、誰も…




―――――――――――――――



手術室の電気が消えて、数秒後に扉が開いた。


中から出て来た先生は、近寄るあたし達にゆっくりと歩を詰めた。


読み取れない先生の表情に緊張が走ってあたしは唾を飲み込んだ。



「手術は無事に終わりました。後は彼の生命力を信じましょう」



え?



『ケンチ大丈夫なんですかっ?先生、生命力ってどーいうっことぉっ…』



感情が爆発して涙が零れる。

いつもいつも、あたしを元気にしてくれるケンチが、あたしの前にいなくて、あたしのせいで目を閉じている。


何も答えようとしない先生に向かって一歩踏み出した時、後ろから抱えられるみたいに哲也くんの腕があたしを押さえつけた。



「奈々…ケンチは大丈夫だ」



耳元を掠める声に力が抜ける。

どーしようもない罪悪感だけがあたしを纏(まと)っているんだ。



『先生あの、タカヒロは?』



ゆきみがあたしの手をギュッと握りしめてそう聞いた。



「すぐに出てきます、彼はだいぶ疲労がたまっているみたいだから、少し休ませてあげなさい」


「お世話かけました」



哲也くんが頭を下げてくれた。



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