■ 心奪2
『あたしも行ってくるよタカヒロ』
だからそう言ったら、隣のタカヒロが嬉しそうに笑った。
別に物分かりのいい彼女を演出してる訳じゃないけど、あたし達の我が儘でタカヒロたちに迷惑をかけたくないだけ。
それは当たり前にゆきみも分かっていて、思いきり頬を膨らませているのに立ち上がってコートを羽織っている。
そんなゆきみにソファーから立ち上がった哲也くんは、自分のマフラーをハンガーから引っ張ってゆきみの首に巻き付ける。
「気をつけろよ」
首に回した腕をそっと引き寄せて、あたし達に背を向けたままゆきみに顔を寄せる哲也くんに、思わずあたしは視線を逸らした。
静かなVIPにほんのり甘い音が何回か響いた。
「ケンチ、直人んとこまで連れてけ」
真っ赤なゆきみの背中を押して哲也くんがケンチにそう言った。
こーゆう時はタカヒロは絶対にあたしには何もしない。
哲也くんとゆきみに被さるような事はしない。
それでもあたしを見つめる瞳は優しいからあたしは笑顔でVIPを出て行った。