■ 言の葉8
「俺がワタルごときに負ける訳ねぇし、奈々がワタルに靡(なび)くなんてことも、有り得ねぇだろ」
今度はゆっくりとタカヒロの両腕があたしの首に回されて。
綺麗なタカヒロの顔があたしに近づく。
重なるオデコはやっぱり熱くて、吐息がかかる距離にいるタカヒロにドキドキする。
「奈々は俺の女だ。ワタルに靡かなきゃ、ケンチにも靡かねぇー…俺が絶対ぇ離さねぇーから」
忘れていたケンチの覚悟さえも、タカヒロには敵わない。
タカヒロが奏でる言の葉は、あたしを安心させてくれる魔法のよう。
例えば真実とは掛け離れている事だとしても、タカヒロがイエスと言うならイエスでしかなくて、タカヒロがノーと言うならノー以外の何でもないってこと。
確かにワタルに狙われてるのは怖い事かもしれないけど、それ以上にタカヒロがあたしを守ってくれるって分かる。
それは勿論ゆきみを含めたあたし達を。
そうじゃなきゃ、ゆきみとあたしをわざわざ披露した意味がなくなってしまう。
あんな派手に披露しといて、守れませんでしたなんて、それこそ許されないよね。
『タカヒロ…ありがとう』
不意に出したあたしの言葉にキョトンとしているタカヒロ。
煙草を加えようとしていたタカヒロの手が止まったのは、あたしがタカヒロに抱き着いたから。
聞いてよかったと思ったから。
顔を埋めるあたしの背中に腕を回すタカヒロは、「はぁー…」と小さく溜息を零した。
ゆっくりとあたしの髪をタカヒロの手が撫でていて。