■ スレチガイ7


『ゆきみっ、うち来る? うち、おいでよ』



ギュッと腕を強く握ると、ゆきみの瞳が小さく揺れた。


唇をギュッと噛み締めるゆきみは、言葉を探しているようにも見える。



『ありがとう』



そう言ってゆきみがあたしの手を握り返そうとした次の瞬間――――



「悪い奈々ちゃん、今日は勘弁して」



大きな哲也くんの手がゆきみの腕を掴んだ。


掴まれたゆきみの腕は…ゆきみは震えていて。


そっと目を伏せた。


涙の後を、次々と新しい涙が伝っていて。



『遅いよ哲也くん』



ゆきみの気持ちを代弁したんだ。


ずっと哲也くんが来てくれるのを待っていたんだって。


こんなに健気なゆきみの気持ちを、哲也くんはもっとちゃんと大事にして欲しいと願わずにはいられない。


ゆきみの腕を引いてバーから出て行く哲也くんに、あたしはそう願う事しかできない。



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