■ スレチガイ6
「直人、ゆきみを離せ」
「…はい」
そう言うのに直人はなかなかゆきみを離さなくて、哲也くんの苛々が増すのを感じる。
「直人っ、離せやっ」
数秒後、哲也くんが強めの口調でそう言うと、直人の隣、ゆきみがゆっくりと目を開けた。
無言のゆきみは鞄を開けて小さな紙袋を取り出すとあたしに向かって差し出した。
それが何なのか、すぐに分かってあたしも鞄を開けてゆきみの前に同じ紙袋を差し出した。
『メリークリスマス…奈々』
『メリークリスマス…ゆきみ』
一緒に買いに行ったから中身はもう分かってるけど、あたし達はそれを今日まで楽しみに持っていた。
『帰るね』
立ち上がったゆきみは、直人の手を離すとあたしにそう言って独り歩いて行く。
哲也くんとは一言も喋らずに。
そこに哲也くんがいないかのように。
でもその背中は、怒っているんじゃなくて…
悲しんでいる。
気づいたらあたしはゆきみを引き止めに走っていた。