■ スレチガイ5
タカヒロに言われてあたしは視線をバーのミラーボールに向ける。
そこにはクリスマスの飾り付けがあって。
直人がほんの少し笑ったらタカヒロの舌打ちが聞こえて…
申し訳なさそうに首を竦める直人に、あたしは苦笑いを返した。
この騒動ですっかり忘れていたけど、今日ってイヴだった。
「ま、そんな友達思いなお前も好きだけどな」
甘いタカヒロの言葉に、顔が真っ赤になっていく。
「哲也さん来ました」
直人の声にバーのドアへ視線を向けると、寒そうに白い息を吐いた哲也くんが入って来た。
すぐにあたし達に気づいてゆっくりと近づく哲也くんは、ほんの少し気まずい表情を浮かべている。
それはあたしが哲也くんに色々言ったからだって。
でも、あの言葉に嘘なんて一つもないし、やっぱりあたしはゆきみの幸せを願うんだ。
哲也くんはもう逃げないでほしい。
ドーンと構えてゆきみを受け止めてほしい。
直人にすら靡かないように。
あたし達の前で足を止めた哲也くんの視線が、繋がれているゆきみと直人の手を気にしているようで。