■ 傷口11
パタンとドアが閉まると、あたしを離す哲也くんは、「腕、ごめん」そう呟いた。
あたしは小さく首を振って。
『傷ついたよ、ゆきみ』
「分かってる」
『哲也くんが守らなきゃ誰がゆきみを守るの?ゆきみにあんな事言わせて、直人の事、なんで否定しないのよ?…やっぱりノリの事が、好きなの?』
言葉を積む度に感情的になって、あたしは自分の心の中にある疑問を哲也くんに投げ付けた。
あたしの質問に又驚いた顔を浮かべる哲也くんは、煙草を手に取ったけれど躊躇(ためら)いながらポケットに戻した。
「俺が惚れてんのはゆきみだけだよ」
哲也くんの声がほんの少し震えている事にあたしは気づかないフリをする。
『じゃあなんでノリの事一番大事みたいに、あんな言い方したの?ゆきみがどんな気持ちになってるか、分かってんのっ?哲也くんがハッキリしないから、ゆきみが可哀相っ!哲也くんの気持ちが、全然見えないよっ』
壁に寄り掛かってる哲也くんの胸元に頭を押し付けて、両手で哲也くんの胸を殴る。
無抵抗であたしに殴られる哲也くんは、やっぱり泣きそうで。
「怖えぇ…んだよ。俺のせいでゆきみが傷つくの、怖えぇーんだ」
どーしようもないって、哲也くんの溜息にあたしは涙が溢れた。
『また逃げるのっ?そうやって又本音隠して逃げるのっ?哲也くんは何も分かってないっ!その弱さが、ゆきみを一番傷つけているって…どうしてそんな簡単な事が分かんないのよっ?…そんな奴、最初からゆきみを守れっこないよっ』
わあぁぁぁぁ―――――
「奈々…」
大声で喚き散らすあたしを止めたのは、悲しそうに微笑む熱いタカヒロの腕だった。