■ 傷口5
『大丈夫』
直人は、わたしの手を離さないって分かってる。
絶対に直人から離す事はないって。
わたしは直人の絶対だ――――
「まぁ、引退した女には興味はねぇな。…無駄死にしたくもねぇし」
少しの沈黙の後、ワタルの声が届いた。
そんなワタルの言葉にハッと息を飲み込んだような哲也。
さっきの言葉は不可抗力だったみたいで、それが余計に真実味という本音を物語っているんだ…って。
一瞬でも気を抜いたら泣いてしまいそうだった。
ゆっくりと哲也が振り返ってわたしに視線を送る。
哲也がわたしを見ている。
今更って気がして、わたしが哲也を見れる訳もない。