■ 傷口2
「なんだ、タカヒロいねぇのかよ?」
煙草に火をつけたワタルはジッとあたしに視線を送ってる。
こいつ、絶対気づいてる、あたしの存在。
上から下まで舐めるように視線を飛ばすワタルに、あたしは寒気がした。
「用はねぇって言ったはずだ、ワタル」
哲也くんの低い声にワタルはニヤリと笑った。
何かを企んでいるようにも思えたその笑いに、あたしは今ここにタカヒロがいない事を悔しく思う。
「タカヒロの女ぁ――――出て来いよっ」
ビクッと肩を震わすと、ケンチがあたしに背中を向けてワタルからの視界を遮ってくれた。
たったそれだけで、あたしは少しホッとして。
「あぁ、ゆきみか?タカヒロの女って…」
的外れな事を口にした。
わざと遠回りな事を言っているワタルの意図が分からなくて。
あたしの事分かってるって顔してんのに、まるでゆきみを確かめるみたいな…