■ クリスマス前夜祭5
【side ゆきみ】
雪も降らなきゃ雲一つない快晴だった空は、時を刻む事にその暗さを増していく。
高校二年の二学期を終了したこの日、クリスマスの暴走を前に青倉庫では慌ただしく準備が進められていた。
クリスマス暴走が終わったらチームのみんなでクリスマスパーティーをしようって話しになって。
今日だけは堅苦しい事一切無しで、みんなで騒ごうって。
通知表を貰ったわたしはあらゆる荷物を家に置くと、哲也のバイクで青倉庫に行った。
ワタルの一件以来、バタバタと忙しかった哲也も、今日はわたしの側にいてくれるみたいで。
それはたぶん今日がイヴっていう特別な日だから。
キリシタンでもないけど、今や日本人にとって、クリスマスイヴは恋人達の重要なイベントと化されている。
哲也と過ごす、二度目のクリスマスイヴに、わたしは沢山の想いを募らせていた。
「お前、後ろ乗る?」
青倉庫に着くなり、わたしをバイクから下ろした哲也は、煙草を吸いながらわたしに視線を向けている。
煙草を持っていない方の手でわたしの腕を引き寄せた。
フワッと抱き寄せられて、哲也のどぎつい香水をモロに浴びる。
『乗るって?』
「今日だけバイク」
思わぬ哲也の言葉にわたしは哲也の胸に顔を埋めるように抱き着いて『乗るっ』って答えた。
寒いのに学ランの第三ボタンまで開けている哲也はもう既に特攻服用のサラシを胸に巻いている。
そのサラシの下、左胸にかかるその辺りに見たことのない…
『傷…』
紅い線にわたしは顔を歪めた。
でも、わたしの反応とは別に哲也は「違げぇよ」って笑う。
煙草を踏み潰すと両手でわたしを抱きしめて…
「後でお前抱く時見せてやる」
…抱く宣言をされて、全身熱くなった。
哲也の言うソレが傷じゃないならいいやって思うわたしは、この先に待っている絶望に気づく訳もない。