■ 根付く恐怖7
「誰の女にモノ言ってんだテメェ」
「哲也さんっ」
ケンチが腕を振り上げた哲也を後ろから抑えるも、「邪魔すんじゃねぇっ」そう怒鳴りつけて。
『哲也ッ、止めてよっ』
ケンチが振り払われた腕に飛び付いたわたしは全身で哲也を止める。
わたしの涙声がVIPに響き渡って、哲也が椅子を蹴り飛ばす音が重なる。
『わたしはっ…もうこれ以上誰も失いたくないっ! 奈々がっ…奈々がっ…奈々がいなきゃ生きてる意味がないっ!』
ズルズルと哲也の腕から離れるわたしは、そのままペタンと床に座り込んだ。
ポタッ…ポタッ…
涙の雫が床を濡らしていく。
「安心しろ、奈々は俺が守る」
ポンッて肩に触れたのはタカヒロで。
優しい声に少しだけホッとした。
『ゆきみ、大丈夫だよ。あたしそんな簡単に死んだりしない。あたしだって、ゆきみがいなきゃ生きていけないもんっ!ね、信じよう!タカヒロのこと、哲也くんのこと…oneのみんなを…』
タカヒロと同じくらい優しい奈々の声に、わたしは小さく頷いた。
信じていない訳じゃないんだよ、わたしだって。
みんな全力で守ってくれるって分かってる。
わたしや奈々に間違いのないように、最善を尽くしてくれるって。
だから――――怖いんだ。
自分を犠牲にしてまで守ろうとするチームメイトに。
哲也や奈々を失うのは勿論の事、直人達だってわたしには大切な存在。
誰一人かけちゃならない。
もう、誰も傷つけたくない。
傷つくのは自分だけでいい―――
そんな偽善的な事を思ったわたしは、後々それを後悔するはめになる。
不安の波は消えない―――