■ 根付く恐怖4
『…女?』
キョトンとしたあたしの問いかけに「あぁ」って呟く哲也くん。
「タカヒロさん、奈々にジャケット…着せない方がよくないっすか?」
ドア付近に立っていたケンチがあたしのジャケットを見てそう言った。
ワタルって人が帰ったらケンチは自分のジャケットをあたしから取ったけど、そこに何の意味が含まれているのか、あたしにはまだ分かっていない。
タカヒロのネームが入っているあたし専用のジャケット。
「ゆきみちゃんも…」
『え、でも…』
誰も説明してくれないから、ケンチの言ってる意味がイマイチ分からないあたしは困惑した声を漏らすだけで。
ただこれは、確かにタカヒロの女って象徴なんだろうけど、あたしはタカヒロを信じているからこれを安心して着ていられる訳で。
どんなことがあっても絶対タカヒロが守ってくれるんだって。
『わたしは…』
正面のゆきみがポツンと呟いた。
『ゆきみ?』
『奈々がタカヒロの女だってワタルに知られて、奈々が危険に曝されるのは絶対に嫌。…もうアキラの二の舞は嫌! でも……―――』
ゆきみが言葉を濁した瞬間、隣の哲也くんの瞳が大きく揺れた。
でもゆきみはその続きを言葉にしなくって。
『ゆきみ…』
分からないから不安が押し寄せるあたしは、ただゆきみを見つめる事しかできない。
『哲也ちゃんと奈々とわたしに説明して』
続きの言葉を封印してしまったゆきみに、ほんの一瞬哲也くんの視線がこっちを向く。
あたしの隣、タカヒロの首が小さく頷くのをあたしは視界の隅に感じて。
背もたれにあったタカヒロの腕があたしの首にグインっと回された。
それを合図に目の前にいる哲也くんは、ゆっくりとあたしとゆきみにも分かるように、重い口を開いたんだ。