■ 嵐の前の静けさ3
「変態だよな〜タカヒロの奴」
愛しそうにゆきみの耳元に口づけた。
ゆきみに対して極上に甘い哲也くんは、あたし以上にゆきみが恥ずかしがっている事を紛らわすかのようにそんな行動をとったんじゃないかって。
「変態はお前だろ、哲也」
…途中中断のタカヒロは少しだけ不機嫌で。
そもそもここでヤるつもりは勿論ないんだけれど。
煙草を灰皿に押し潰す手には少し力が込められて見える。
「心外だ」
そう言いながらゆきみを後ろから抱きしめていて。
いつも以上に照れているゆきみに何だか申し訳ない気持ちになる。
「哲也、先行けよ」
潰れたはずの煙草。
タカヒロの綺麗な指には又新しい煙草が挟まれていて。
ゆきみを抱きしめている哲也くんの視線がこっちに飛んでくる。
同じ色の赤い髪の二人はほんの一瞬目を合わせるとすぐに逸らして、同じ目をこっちに向けた。
『奈々、またね』
『…うん。ゆきみ、ごめんねっ、変な物見せて…』
「………」
『全然っ。さ、先行ってるから』
まだ気まずさを残したゆきみが、首を振ってそう言う訳で。
哲也くんに抱き抱えられるみたいにVIPのドアから二人が出て行った。