■ 嵐の前の静けさ2
「休憩料金五千円、前払いでいいっすか?」
パチッと目を開けると、少しだけ口元を緩ませてあたし達に手を差し出している哲也くん。
苦笑いのあたしと目が合うと、引っ込めた手が特攻服の後ろポケットにある煙草を取り出して火をつけた。
白い煙りが天井に吸い込まれていって、ゆっくりとあたしの上から起き上がったタカヒロは、乱れた髪も直さずに哲也くんを睨みつけた。
ダンッて大きく足を開いてソファーに座るタカヒロも、後ろにあるデスクにあった煙草を乱暴に手に取ると火をつけた。
「なんだよ哲也」
ぶっきらぼうなタカヒロの言葉にあたしは小さく笑った。
哲也くんに見られた事は恥ずかしいけれど、それをあたしに対して冷やかす事はしないって分かっているから。
「だいたい揃ったぞ」
「あぁ」
間もなく始まる暴走。
今日はちょっと特別な日で。
準備が終わってVIPでまどろんでいたあたし達をわざわざ呼びに来てくれた哲也くんは、まだ長い煙草を灰皿で潰すとそれだけ言って又あたし達に背を向けた。
でもそれは、ドアとは別の方向で。
『えへへ…』
哲也くんが手を差し延べた先にいたのは、髪の毛と同じくらい真っ赤な顔をしたゆきみだった。
『えっ? ゆきみッ?』
気まずさ120%って感じ、視線を泳がせてあたしから目を逸らしたゆきみ。
死角になっていたソファーから這い出てきて、手を伸ばす哲也くんの側に寄って行く。
『ごごごご、ごめんね。何となく出ていけなくて…』
哲也くんのネーム入りジャケットを羽織っているゆきみは、哲也くんに隠れるみたいに腕に巻き付いた。
どうやらさっきからこの部屋にいたみたいで。