■ 大切な笑顔1
【side ゆきみ】
何て言えばいいのか分からない。
あの日わたしは『直人に抱かれた…だからもう哲也のものじゃない…』そう言ったんだ。
そんなわたしを信じてくれてた?
そう思ってもいい?
もう一度哲也に抱きしめて貰いたい…
『哲也…』
ギュっと哲也の学ランの袖を掴んで唇を噛み締めるわたしに、哲也の腕がそっとわたしのその掴む腕を離したんだ。
触るな…直人と一緒にいた日に言われたあの言葉のように冷たい哲也の腕。
奈々に貰った勇気の半分以上がなくなってしまわれたんじゃないかって思ったその時…―――――――
グイって哲也の腕がわたしの腕を逆に掴んで、その熱い胸にフワリと閉じ込めたんだ。
「…どこにも行くなもう」
そう告げてギュっと強くわたしを胸に閉じ込める哲也。
安心できるこの温もりと、わたしが何より…誰よりも求めているこの温もりに、そっと目を閉じて小さく頷いた。
『ごめんね。哲也』
「怒ってねぇよ」
『…どうして怒らないの?』
「…お前が俺しか見てねぇの分かってたから」
そう言って優しくわたしの髪をスローで撫ぜてくれる哲也。
自信満々な自意識過剰な言葉だって思うかもしれないけど、わたしは哲也がわたしのことをちゃんと見ていてくれたんだって思ってそれがすごく嬉しい。
わたしの表情一つ見逃さずに見てくれていたんだって。
だけど一つだけ分からないことがある。
『でも哲也、この前直人と一緒にいた時、わたしに触るな!って言った…』
あの日、本気で死にたくなりそうなくらい悲しくて。
自分でまいた種だと分かっていながら、自分の行動を後悔したんだ。
哲也に嫌われても仕方のないことをしたのはわたしだから。
「そんなの…」
そう言った哲也は、ほんの少しわたしと距離を作ると、優しく微笑んだままわたしの頬をゆっくりと大きな手で撫ぜる。
そうしてまたわたしの頭を抱えるように哲也の胸にギュっとわたしを閉じ込めた。
続けてこう言ったんだ。
「あんな目で俺のこと見やがって、ゆきみにちょっとでも触れたらそのまま連れていきたくなんだろ…。せっかくゆきみが一人で頑張ってるのに努力も何も壊しそうだったんだよ」
…トクンと胸が高鳴った。