■ 許せる人5


美幸と恵里と航くんを送りに行ったケンチ。

ワタルも帰した青倉庫。

チームの子等も家路について、この場所にはあたし達しかいない。

何となく帰れなくて。

あのワタルの涙に嘘はなくて、これからワタルがどうするかは分からないけど、もう間違いは起こさないって確信があった。

最後にゆきみにワタルが言った言葉は「サンキュー」だった。

そこに込められた意味はゆきみが分かっていればいいって思う。

これでゆきみと哲也くんは、幸せになれるよね。



「奈々、帰るぞ」



タカヒロがバイクのキーをチラつかせてそう言う。

いつも車なのに今日に限ってバイクで。

ケンチとか直人の後ろはよく乗ったけど、タカヒロの後ろってあまり乗ったことがなくて。



『乗せてくれるの?』



変な言葉を発してしまう。

そんなあたしをもっと変な顔で見るタカヒロ。



「え?どーいう意味だ?」

『なんでもないっ!いつも車だから珍しいなって…』



素直にそう言うとタカヒロは一瞬瞳をグルリと動かしてフッと微笑んだ。



「お前を送るのは俺の役目だからな〜」



そう言って腕を差し出すタカヒロ。

ちょっとお茶目なタカヒロ。

こんな掛け合い久しぶりで、嬉しくて泣きそうになる。



「ああ哲也!VIPはラブホじゃねぇーからなぁ!」



それから振り返ってそう叫ぶんだ。

タカヒロを見て呆れた顔を返す哲也くんが可笑しくて。

そんな哲也くんを見てゆきみも笑っている。



『ゆきみ。直人に返して貰ったよ、ゆきみの笑顔。もう思いっきり哲也くんのこと好きでいていいんだよ』



ほんの少し躊躇いが見えるゆきみにそう言うと、ゆきみの眉毛が少し下がった。

だからゆきみの手を引いてギュッと引き寄せた。



『あたしの勇気ゆきみにあげる!哲也くんを信じてゆきみ』

『奈々…うん。ありがとう…』



ギュッと強くあたしにしがみついたゆきみは、少しの後あたしから離れて哲也くんの傍に真っ直ぐ歩いて行く。

その後ろ姿は凛としていて、迷いなんてもんは微塵も見えなかった。

大丈夫。

ゆきみと哲也くんは絶対に離れない。


心からそう思うんだ。

タカヒロのバイクの後ろに乗って、あたしは青倉庫を後にした。

明日またゆきみの笑顔に逢えると信じて―――――




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